第197話 膝

「これからは本気でいきます」

 康生はそう言ってグローブを構える。

「あぁん?まるで今まで本気じゃなかったみたいな言いぐさだな」

 康生が改めて攻撃態勢をとると、斧の男は少し警戒したように構えます。

 おそらく康生の雰囲気が変わったことを読みとったのでしょう。

「はい。時間がないので決着をつけさせてもらいます」

 康生がそう言うと、斧の男は舐められたと思いさらに不満を口にしようとしたが、寸前のところで止めた。

 何故ならば、康生が装着している装備やグローブからわずかに淡い光が漏れ出したからだった。

 それこそが康生が新たに開発した技術であり、武装機械の技術を併用したものだった。

 だからこそ斧の男はそんな康生に警戒心をさらにあげた。

「――俺も参加しよう」

「あぁん?」

 康生の力を警戒したのか、後ろで待機していた男の一人が斧の男の隣まで歩いてきた。

 その男は時雨さんが持っている長刀よりも長い槍をその手に持っていた。

 しかし斧の男は気に入らない様子で、槍の男をにらんでいる。

「嫌な予感がする。だから俺も戦ってやる」

 だが、槍の男はそんな斧の男など気にせずに康生に向けて槍を構える。

「何が嫌な予感だ。どうせあいつは武装解除をしただけだ。いくら機械装備の性能がいいとしても、そんなものはすぐに時間がきれるんだよ。だから俺一人でも十分だ」

 それでも斧の男は一人で戦いたいらしく、槍の男の前にさらに足を進める。

「君はいつだってそうやって自分勝手だな。少しは冷静になれないのか?」

「けっ、今更なんだよ。それが俺なんだからよっ!」

 口喧嘩でも始まるのか、と康生はしばらく傍観していたが、やはり二人は全地下都市直属の隊長達だ。口喧嘩をするわけでもなく、一方的に意見を言って斧の男は真っ直ぐ康生の方に向かってきた。

「どのみちめんどうなことが起こる前に倒せばいいんだろうがよっ!」

 そう言うと斧の男はなんと、二人の斧を重ね合わせ、両手で持ったのだった。

「これだったらいくら防御しても殺せないことはないからなっ!」

 突進してきたスピードも相まって、斧の男はとんでもない速さで康生に迫ってきいた。

 それは武器を振り下ろすのではなく、武器とともに飛んできているという感じだった。

 しかも大きく横振りをしているものだから逃げ場は限られている。

「…………」

 しかし康生は焦ることなく、冷静に敵の攻撃を見据える。

 その攻撃が迫ってこようとも微動だにしなかった。

「へっ!どうした避けねえのかよっ!」

 微動だにしない康生を見て斧の男は挑発のようなことをいってくる。

 そんな挑発からは、恐らくこの大振りを避けてもすぐに次の攻撃を仕掛けられる準備をしているのだろう。

 だからこそ康生は冷静にじっくりと敵の動きをみる。

「へっ!ならこのまま死んじまえっ!」

 それでもなお動かない康生に、斧の男は狙い違わず斧を振り上げた。

 斧の刃は確かに康生の腹へと吸い込まれ、そしてやがて肉を切り裂くと誰もが思っただろう。

「なっ!?」

 しかし実際には斧の男はその場に膝をついていたのだった。

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