第194話 訂正

「ほぉ、今のを避けるか」

 康生の頭に向けて銃弾を放った男が、その口元を緩ませる。

 その男の言う通り、康生は迫ってくる銃弾を間一髪のところで避けた。

 だがAIの銃弾予測がなければ確実にあたっていた。

 それほど攻撃は急で、突然だったのだ。

「……いきなりとは随分卑怯ですね」

 冷や汗をかき、避ける次いでに敵から距離をとる康生。

 話し合いを希望していたのに、いきなり攻撃されたのでは康生も最大限警戒せざるをえない。

「卑怯?はっ、化け物相手に卑怯もくそもあるか。あいにく俺達はお前等みたいな魔法は使えないんでな!」

 康生の言葉を返すと同時に、男はさらに立て続けに弾丸を放つ。

 それを康生はAIが提示する弾丸予測をめがね越しに見ながら回避する。

「貴様っ!」

 しかしその弾は康生を狙うばかりで、隣にいる翼の女のところには攻撃がこなかった。

 そのことが、翼の女の怒りに火をつけ、すぐにでも襲いかかろうとする。

「待って下さい!」

 しかしそんな翼の女を康生は止める。

「どうしてだ!?」

 攻撃されているのに何もしないのはおかしいと、翼の女は訴える。

 しかし康生はそんな翼の女の訴えを無視して、再度都長に向かって話しかける。

「やっぱり、話し合いをしませんかね?」

「何を今更?我々人間は化け物と話す言葉などない。後はお願いしますよ」

「けっ。お前なんかに命令されなくても仕事はちゃんとやるわ」

 都長はそれだけ言ってテントの中へと入っていった。

 そうして残されたのは康生と翼の女と、それぞれ特殊な鎧を着た兵士が五名。それぞれ銃に剣に槍に斧、さらには鎖を持つ者など様々だ。

 恐らく、皆康生が地下都市で戦った隊長と同じかそれ以上の強さなのだとひしひしと伝わってきた。

「おい、何をいつまで寝ぼけている!」

 いつまでも戦う姿勢をとらない康生を見て翼の女は剣を向ける。

「お前は何をしにここにきた?」

「それは……」

 そうだ。康生は、この戦いを終わらせにここにきたのだ。

 頭を倒して、この戦いを一刻も早く終わらせるためにきたのだ。

「それにお前は話し合いがしたいといったな?だったらすぐに話し合いをすればいいじゃないか」

「あぁ?お前何言ってんだ?もう話すことなんて何もねえよ」

 翼の女の言葉に、男の一人が口を挟む。

 しかし翼の女はそれを無視し、康生を見続ける。

「……話し合いをすればいい。…………そうか、そうだ!」

 そこまで聞き康生はようやく思い出す。

 敵と話し合う方法があることに。

 自分は一度それを経験していることに。

「ありがとうございます」

 康生は一言、翼の女に例を言ってその拳を構える。

「別に礼などいらん。そんな暇があったらさっさとこいつらを倒せ」

 康生が拳を構える横に翼の女が剣を構えて立つ。

「おっ!いいじゃねぇか、ようやくやる気になったかよ!」

 斧を構えた男が康生達の戦闘態勢を見て、うれしそうに武器を構える。

「だけどよぉ?一つ訂正するけど、お前達は何があっても俺達を倒せない。その事実だけは絶対だぜ?」

 そんな男の笑い声とともに、康生達の戦いが今、ようやく始まった。

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