第190話 地下

「よし!じゃあすぐに戻って敵の情報を聞き出してやる!」

 上代琉生からの無線を終えた翼の女はすぐさま陣地に戻ろうと方向を変える。

「俺もいきます」

 翼の女にならい、康生も方向を変える。

 事態は刻一刻と過ぎているので翼の女は自然と飛ぶスピードをあげる。

「くっ……」

 今まででもついていくことがやっとだったスピードだったが、それよりもさらに速く先を行く翼の女を見て、康生はわずかばかり焦燥感を覚えながら必死についていく。

 途中、最前線の上空を飛ぶ際に地上から弓矢が飛んできたが、康生達は気にせずに飛んだ。

 その際に、時雨さん達の様子をチラリと確認した康生だったが、今のところはあらかじめ用意していた盾でなんとかなっている様子だった。


「上代琉生っ!奴はどこだ!」

 本部に戻って早々、翼の女は元都長の姿を探す。

「ふぅ……」

 そして続いて康生も本部に着地する。

「ん?」

 康生は一度本部の中を見渡すが、元都長の姿がないことに少しだけ違和感を覚えた。

「一体奴はいまどこにいるんだ!」

 翼の女も、元都長の姿が見えないことからことの事情を知っている上代琉生に説明を求める。

「あの人なら逃げましたよ?」

 しかし次の瞬間、上代琉生から発せられた言葉に、翼の女と康生は絶句したのだった。



 場所が変わってここは地下都市のさらに地下に作られた下水道。

 そこは緊急の際に抜け出せるようにという目的で作られ、今では外から秘密裏に物資をもらい、また公には出来ないような物、もしくは人を運ぶための通路だ。

「ふははっ!奴らも甘いの!」

 上代琉生の元から無事逃げることに成功した元都長。

 さらにその手には時雨さん達が書いた新たな作戦書が握られている。

「さて、それじゃあすぐに報告をしに行こうか――いや、まてよ?この場合、儂はもう奴のところに逃げておいた方がいいのではないだろうか?」

 作戦書を手元に、元都長はこれからのことを考える。

 前のように、向こうの都長に作戦内容を全て送信しようかと思っていたが、戦いが起こってしまった以上は、自分の身に何があるか分からない。

 だからこそ、新たな情報を片手に向こうの陣地へと行けば、自分は助かるのではないか?

 元都長はそう考えたのだった。

「ふふふっ!よし!すぐに向かおうか!」

 再び元の地位へと戻れることへの妄想が笑みを生み、元都長はそのままこれから先に待ち受けているであろう、幸せな生活を思い浮かべながら地下都市を抜け出す。

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