第186話 客人

「康生っ!」

 康生の姿を見つけた翼の女はすぐに降下した。

 その際、迫ってきていた兵士を翼の風圧で飛ばす。

「結局どうなりましたかっ!?」

 向かってくる敵を吹き飛ばしながら康生は翼の女の元まで駆け寄る。

「作戦に変更はない。私たちが早急に敵の頭を探し討ち取る。それだけだ」

「やっぱりそうですか……」

 この作戦は会議であれほど悩んだ末に決まった作戦だ。

 敵を死なせないため、すぐに別の作戦を考えるなんてのは元々無理な話だったのだ。

「それで、上代琉生はどうでしたか?」

「あいつは恐らく逃げた。私達が飛び去った後にすぐに時雨達の前から姿を消したそうだ」

「逃げた……」

 なまじ信用していただけあって康生の心は痛む。

 さらに康生の責任の元に上代琉生を信用するようにいったのだから尚更だ。

「分かりました。裏切り者の責任は俺が負います」

 そう言うと同時に、康生は空中に飛ぶ。

「あぁ、その責任分はしっかり働いてもらうからな」

 続いて翼の女も飛び立つ。

 敵兵は飛んでいく二人を見て初めは弓矢を放っていたが、それが当たらないと分かるとすぐに武器を切り替え、康生達の自軍の方へと攻め込みだした。

「大丈夫ですかね?」

 自軍の方へと攻められている姿を確認しながら康生は不安そうに呟く。

「大丈夫だ。あそこは時雨が前線に立って指揮している。きっと大丈夫だ」

「はい……」

 殺さずに戦う。もしそのせいで、時雨さん達が死ぬような事があったらと、康生は一瞬考えてしまう。

 しかし、自分がそんな考えをしては駄目だとすぐにその考えを打ち消す。

 そしてそうならないためにも、康生は真っ直ぐ飛ぶ。

 敵の頭を見つけて叩くために。




「――とりあえずは作戦通りに動くと。これで一安心だ」

 ここは先ほどまで時雨さん達がいた場所。

 すでにすべての兵士が時雨さんとエルとに続いて出払っており、無人となっている。

 そんな場所に一人、上代琉生は立っていた。

 表情はいつものように感情を隠すような底知れない笑みを浮かべて。

「作戦通りだと、このまま英雄様は敵兵の上を飛んでいき、頭と直接対峙する……だったな」

 机の上に広げられていた作戦の概要を見ながら一人呟く。

「だが、それは失敗に終わる。何故なら……」

 とそこまで呟いたところで上代琉生は突然動きを止めた。

「――おっと、ようやく客人がきたか」

 作戦概要が書かれた紙を手にとり懐へと入れる。

 そうして振り返り、やってきた客人を上代琉生はその笑みで出迎えた。

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