第185話 スタート
「くそっ!」
康生はギリギリのところで斬り込んでくる剣を交わし、同時に風の力で敵を飛ばす。
飛ばす時にも、致命傷にならないように細心の注意を払いながら飛ばすので、康生の気力と精神がどんどん蝕まれていく。
敵兵はそれが分かっているのか、鎧も着込まずに余裕の表情で斬りかかってくるものだから、康生からすればたまったものではなかった。
「ちっ、もう風の力が無くなったか!」
風の力を入れていた容器が空になりすぐさま充電用の場所に装着する。
しかしこのまま風の力をためるために、高速で移動しようとしても、その間に目の前の敵兵が自軍の兵と衝突してしまうこともあり、康生はその場から動けずにいた。
「早くして下さいよっ!」
そんな愚痴をこぼしながら、康生はとうとう魔法主体の戦闘に切り替えてしまった。
「出来るだけ魔力は温存しておきたったのに!」
再度愚痴をこぼしながら、康生は再び目の前に迫ってくる敵兵を吹き飛ばす。
「――兵士たちに引き留めさせよう」
ここは作戦本部。戦場を見渡せるそこには時雨さん、翼の女、エルが座っている。
あれから、自分達の作戦が漏れていることを知り、急遽作戦の変更をすることになり、こうして話し合っている。
従来の作戦は、兵士達に敵兵をせき止めさせ、その間に空から康生と翼の女で敵の頭とやり合う。
そんなシンプルな作戦だった。
しかし現状、敵はこちらが殺さずに戦闘を乗り切ろうとしていることがバレているため、兵士達が安易に攻撃できなくなっている。
鎧同士の戦いなら、異世界人も混じり希望はあった。
しかし現在の装備でいえば、異世界人達が攻撃を一つでも浴びせようものならば敵兵は簡単に死んでしまう。
改めて人間のもろさを実感しながらも話し合いを続ける。
さらにいえば、こちらの作戦が漏れているということもあり、敵兵の頭がどこにいるのか検討がつかなくなっている。
もしかするとどこかに隠れている可能性だってあるのだ。
そのせいでさらに時間をロスしてしまい、前線で戦っている兵士達がより苦しくなってしまう。
「――もうやるしかないだろう」
一向に進まない話し合いに、翼の女は口を開いた。
「で、でも……」
このまま何も考えずにやってしまえばどんな未来が待っているか分からない。エルにとってはこの戦いは大事な戦いなので、それがとにかく怖いようだ。
「用は敵の頭を速攻で見つけて叩けばいいだけのこと。任せて下さいお嬢様」
「…………」
翼の女が言うが、しかしそれでもエルは心配そうな表情を浮かべるだけだ。
「それに……今は康生が一人で戦っている。これ以上一人で戦わせるわけにはいかない」
「っ……」
その言葉を聞いてエルははっとする。
「…………分かった。それじゃあ作戦通り二人は敵の頭を探して。こっちは出来る限り敵を近づけさせないように工夫してみるから」
そう言ってエルは事前に康生に渡されていた煙玉等々の妨害を道具を出した。
「それじゃあ行って参ります」
「あぁ。私たちも前線に行こうかエル」
「うん」
翼の女は飛び立ち、時雨さんとエルもそれに続き戦場へと足を進める。
こうして康生達の作戦がスタートされた。
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