第92話 堂々と

「私も手伝うよ」

 時雨さんの背後からエルが現れた。

「エル……」

 康生はエルのことを気にして、ここに近づけないようにしていたが、この現場に来てしまっていることを知り表情を暗くする。

「私にも協力させて」

 エルは真っ直ぐ康生を見て言う。

 しかし康生は視線を逸らす。

「で、でもエルが……」

 康生の記憶の中には、リングでエルの正体がバレた時のことが焼き付いていた。

 あの時、エルが異世界人だと知れただけで、都長の恨みよりもエルへの憎しみが勝っていた。

 その事実だけで、この世界の人が異世界人にどれだけの思いを抱いているかがよく分かった。

 だからこそ、二度とエルにあんな思いをさせたくないよう康生は気をつけていた。

「康生、ここはエルに任せてはどうか?」

「時雨さん……」

 時雨さんに言われて康生は言いよどむ。

『大丈夫ですご主人様。エルはご主人様が引き籠もっている間に何もしなかったわけではありませんから』

「そうだよ。あれから私頑張ったの。今では街の人達と仲良くなったんだよ?」

 そう言ってエルは周りを見渡す。

 すると兵士達皆、エルに微笑み返していた。

「――分かったよ」

 そんな光景を見せられては康生はもう何も反論できることはない。

「いつまでも康生に守られてばかりじゃいけないもの」

 康生の横を通り過ぎるとエルは小さく呟いた。

 そうしてエルは康生に代わり、三人の隊長の前へと進んだ。

「初めまして皆さん」

 エルはまず三人に対して挨拶を交わす。

「もしかして貴様があの異世界人……」

 やはり隊長達の反応はお世辞にも良いものと呼べるものではなかった。

 先ほど康生に向けていた恐怖の表情から一気に怒りの表情にその顔を染める。

「時雨!貴様異世界人と言葉を交わすなど恥を知れ!貴様はそれでも部隊長か!?」

 隊長の一人はエルではなく、背後の時雨さんに向かって怒声を飛ばす。

 しかし時雨さんはそれに対して何も言うわけでもなく、ただじっとエルを見つめているだけだった。

「皆さん!私の話しをどうか聞いて下さい!」

 エルはそれでも諦めずに必死に話しかける。

 やがて一人の隊長がエルの方を向く――だが目を合わせることはしなかった。

「異世界人などと話すことは何もない」

 ただ一言そう述べるだけだった。

「…………」

(やめてくれエル……)

 隊長達の予想通りの反応を見て康生は後悔する。

 やはりエルを一人で話させるべきではなかった。またエルに悲しい思いをさせてしまう。

 だからこそ康生はエルを助けに行こうと足を出す。

 しかしそれは時雨さんに止められてしまう。

 どうして。そう言おうとしたが、それよりも先にエルが言葉を放った。

「私は異世界人です。現在、人間と戦争をしている異世界人の一人です」

 エルはそんな隊長相手に恐れることなく、堂々と宣言したのだった。

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