第40話 扉の先
「着いたぞ。ここが私の家だ」
地下都市を歩くこと数分。とうとう時雨さんの家に到着した。
時雨さんは部隊長をやっているという事もあってか他の建物と比べ少しサイズが大きく、壁も綺麗のように感じた。
「まぁ、狭い所だが楽に過ごしてもらって構わない」
「は、はい」
康生は女子の家という事で少し緊張気味で家に中へと入る。
「お邪魔します」
後から入ってきたエルの言葉で康生は「お邪魔します」を言うのを忘れた事に気づく。だがもう後の祭り。ここまで入ってきてしまって「お邪魔します」を言うのはおかしい。
こういう常識的な事は引きこもっていたせいで忘れてしまっているのだ。
「結構広いですね」
後悔しながらも時雨さんに着いていき玄関を抜ける。
するとそこにはリビングのような少し広めの部屋が待っていた。
「本当は私一人なんだからこんな大きな家はいらないんだがな。それでも今日君たちが来てようやくこの家のありがたみを感じたよ」
そう説明する時雨さんを横目に康生は部屋の中をじっくりと観察する。
この家は今いる部屋プラスいくつかの部屋があるようで、見た感じ三つぐらいはありそうだ。
上へとあがる階段はないのでこの建物は一階建てのようだった。
「とりあえず二人はそこの部屋を使ってくれ」
「分かりました」
「は、はい!」
エルと康生はすぐさま返事を返し、言われた通りの部屋へと向かった。
「―――ちなみにここのトイレってどうなっているんですか?」
部屋に入る前、康生は一度振り返る時雨さんに確認を取る。
「あぁ、トイレならあそこ。ちょうど隅っこにある扉がそうだ」
「あ、ありがとうございます。じゃあちょっと借りさせていただきます」
一言断ってから康生はトイレへと向かった。
「――ふぅ」
実際初めての女子の家だが、正直今の康生はここに来るときまでのワクワク感はなくなっていた。
でも、それもそうだ。こんな苦しい世界の中で生きているのだから女子っぽいものなんかあるわけもないか。しかも時雨さんは部隊長でカッコいいからあまり女の子らしい物なんて持ってないんだろう。
そう康生は考えながらも用を足した。
「よし、じゃあ早く部屋に戻って一休みしよう」
そうして康生はトイレから出て自分の部屋へと向かう。
「あれ、扉ってどっちだったっけ?」
しかし扉の前で康生は固まってしまった。
何故なら扉は二人あり、康生の記憶ではそのどちらか片方が康生達が使っていい部屋なのだ。
でもあまりにも緊張し過ぎたせいでどちらが自分の部屋か忘れてしまっていた。
(ここしょうがない。一か八かでどちらか片方を選ぶか)
カチャリ。
しばらく悩んだ末、康生は左の扉を開く。
すると次の瞬間、
「キャーーー!疲れたーーー!」
部屋の中から小さな悲鳴が聞こえた。
一体何事かと扉を開けて中を確認する。その間にも声は響く。
「もう疲れた〜!」
もしかしてエル?
そう思考を張り巡らせながらも康生はゆっくりと、ゆっくりと扉を開き中を覗き込もうとする。
(でも、エルってそういキャラだったった?)
なんて不思議に思いながら康生はいよいよ扉を全て開けはなった。
「あ〜〜癒される〜〜!」
するとそこにはベッドの上で沢山の人形に囲まれている時雨さんがいたのだった。
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