第27話 初めてのドラゴン
「――逃げてっ!」
エルがそう叫ぶと同時にこちらに走ってくる。
その背後にはドラゴンがこちらを睨むように見ている。
「行くぞ少年!」
「は、はい!」
エルが走ってくると同時に俺たちも一緒に走り出す。
背後のドラゴンから逃げるように。
「ガグゥーーー!」
すると背後のドラゴンが呻き声をあげる。
かと思ったら背後でパチパチと音が聞こえた。
「急いで!火を吹くわ!」
「火!?」
エルの言葉通り、背後を振り返るとドラゴンの口からはパチパチと火が出ていた。
「前を見て走れ!」
そんな康生に白い鎧の女は怒鳴る。
だから康生はすぐさま頭を戻し走る事に集中する。
二人の様子を見るからに相当ヤバい状況なのだと察し、康生はより一層足を動かす。
「ガァーーーー!」
瞬間、背後でドラゴンが一層大きく呻く。
ゴォーーーー、という音と共に背後から熱風が襲う。
それからバチバチという音がより一層大きく背後に響く。
「た、助かったのか……?」
白い鎧の女は地面に倒れ込むように立ち止まる。
それにあわせるように康生とエルもその場に立ち止まる。
ゆっくりと背後を振り返ると、先ほどまで康生達がいた場所は火の海となっていた。
「こ、これがドラゴン……」
思わず呟く。
ドラゴンなんてものは空想上の生物であり、康生はゲームの中でしか見たことがない。それは当然なのだが今こうして人生で初めてドラゴンと対峙する。
普通は興奮でもするのだろうが、今の康生の中はそんな喜びよりも圧倒的に恐怖が勝っていた。
『見とれている場合じゃないですよご主人様』
そして離れていた意識を戻したのはAIだった。
『そんな事よりすぐに頭を使って下さい。それとも今の熱風で脳味噌が溶けちゃいましたか?』
こんな時でもAIの口は絶好調だった。
「悪い、少しボーッとしてた」
だからこそ康生はすぐに冷静になる。
今この場所を乗り切る方法を考える為に。
「――それはもしかしてAIか?」
突然の第三者の声の正体は白い鎧の女だった。
そして物珍しそうに康生のスマホをのぞき込む。
『失礼ですが、今はそんな事をしている暇はないと思いますが?』
「わ、悪い。つい珍しかったので……」
どうやらAIはご主人様以外にも平常運転のようだった。
「ごめんなさい、私がちゃんと説得できなかったから……」
とそんな二人に向かってエルは頭を下げる。
「いや、エルのせいじゃないよ。どのみち俺たちは狙われていたみたいだし」
「そうだ気に病むことはない。むしろドラゴンの前で数分間も立っていたことに驚いているぐらいだ」
そんなエルに二人は思い思いの言葉をつなげる。
「それでドラゴンはなんて言ってたんだ?」
すぐさま康生はエルに尋ねた。
この状況を打破するために必要な情報を。
だが康生を尋ねるとエルは表情を暗くする。
「――ごめんなさい!私ドラゴンと会話出来ないの!」
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