第26話 説得中

「ガァーー」

 ドラゴンは小さく叫びながらゆっくりと俺たちを見下ろす。

 その間にも、バサバサと翼をはためかせ強風が俺たちを襲う。

「お願い!落ち着いて!」

 そんなドラゴンに向かってエルは絶えず必死に声をかける。

 康生はそんなエルを助けるため、隣へと移動しようとする。

 だがそれより前に近くに白い鎧の騎士がやってくる。

「あの女の子は一体何を言っているんだ?」

 白い鎧の女は長刀を地面に突き刺しながら必死に強風に耐えていた。

 それほどの鎧を着ても飛ばされようとしているのだからこの風は相当なものだ。

 だから康生は醜くも必死に地面にしがみついてた。

「きっと説得しているんだよ」

 ゆっくりと頭だけ動かしながら答える。

 強風で聞こえないかとも思われたが、康生の言葉は無事に白い鎧の女に伝わったようで、眉を曲げていた。

「説得だと……?」

 白い鎧の女は一言呟いてじっとエルを見つめる。

「――もしかしてあの女の子は異世界人か?」

 どうしてかは知らないが白い鎧の女はエルの姿をしばらく見ただけでエルが異世界人だと気付いたようだ。

 そして康生は言葉を返すのを躊躇する。

 先ほどの男のようになってしまうのではないかと恐れたからだ。

 今エルに向かって攻撃されては康生は守れるかは自信がなかったのだ。

「――違います」

 だから康生は嘘を付くことにした。

 今は余計な事は起こしたくないから。

「嘘だな」

 だが白い鎧の女はすぐに言葉を返した。真っ直ぐと康生を見つめながら。

 じっと見つめられ康生はそっと目をそらしてしまう。

「君はどうやら嘘を付くのが苦手のようだな」

 その康生の反応を見て白い鎧の女はふっと笑みを浮かべた。

 笑みを浮かべた事に対して少しだけ戸惑ったが、康生はすぐさま身構えた。いつでも白い鎧の女を攻撃できるように。

「――そんなに身構えなくても大丈夫だよ」

 だが白い鎧の女は、康生の攻撃態勢に対し再度にっこりと微笑み返した。

「事情は知らないが、今あの女の子はドラゴンを説得しているのだろ?ここで暴れないように。いくら異世界人だからといってそんな子を攻撃しようだなんて私は思わないよ」

 そんな言葉を聞いても康生はしばらくの間攻撃態勢を解くことはなかった。

 でも白い鎧の女がじっとエルを見守るように見ていたので、康生は徐々に攻撃態勢を解く。

「お願いっ!」

 そして康生もエルの方へと視線を動かす。

 エルは今もドラゴンに対し必死に声を掛けているようだった。

 それこそ必死に大声を出して。

 ――だが説得するにしては少しだけ時間が長いよう感じた。

「――本当に大丈夫なのか?」

 白い鎧の女も康生と同じ事を考えたようで、心配そうにエルを見ている。

「きっと大丈夫だと……」

 そこまで康生が言った瞬間、

「――逃げてっ!」

 康生達の方へ向かったエルが走ってきたのだった。

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