第3話 放課後の教室にふたりきり
窓から見える運動場には野球部などが早くも練習をしている。帰宅部は校門からワラワラと出て行く。教室には男女がふたりきり。
女の子は自他共に認めるこの学園一の美少女。男の子は冴えないぼっち君。
このシュチュエーションなら男の子はドキドキして挙動不審になってもおかしくないよね?
でも、どうして! どうしてなの! しゅう君はしれっとスマホをいじっている! ドキドキはどう見てもしていない!
なぜ? 私は学園一の美少女なのに! 今年の文化祭で学園ミスコン三連覇確実と言われているのに!
私は心の中で叫んだ。しゅう君は放課後の教室に残ってくれた。と言うより残らざるを得なかった。
クラスのみんなが帰ろうとしていたしゅう君を引き止めた。彼は私を蔑んだ目で見た。クラスのみんなはコントの撤収の如く『ザザー』と一斉に帰った。
私は立っていたけど自分の席に座った。しゅう君も自分の席に座っている。
「あの……西園寺君。どうしてあんな事したの?」
うん。我ながら素晴らしい質問。これならしゅう君は私の事が好きと告白できるよね。
しゅう君は絶対私を好き! だから私のオナラを自分のオナラにした。しかも、う◯こ漏らしたかも発言!
普通そんな事する? しないよね? 好きだからだよね? 私は責任を取ります! しゅう君の彼女になります! 告白バッチコイ! 即オッケーだよ。
「……それはな……」
しゅう君はスマホを触るのをやめて私を見つめてきた。鼻血が出そうなくらいドキドキする。
「……お前を利用した」
「分かった、彼女になり——えっ? 利用?」
私を利用? なにそれ? 意味分かんない。
「そう。俺に誰も近づかない様にする為だな」
「……つまり、ずっとぼっちでいたいから?」
「ぼっちか……まぁ、そうだな」
ぼっちで居たいからってあそこまでする?
「それは嘘だよね? ホントは私を好きだからだよね?」
「はっ? 何故そうなる? お前の頭はお花畑か?」
「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。素直になろうよ」
「……死ね。これだから美少女は嫌いなんだよ」
あれ? ホントに違うの? でもしゅう君、やっぱり私を美少女と認めているんだね。
しゅう君は無言で立ち上がり帰ろうとしている。
「待って! 私、西園寺君——しゅう君の事が好きなの!」
「いや、そういうの要らないから。ウザい」
うっ、ウザい⁉︎ 私の生まれて初めての告白がウザい⁉︎ 学園一の美少女の告白だよ? 男の子なら嬉しいはずだよね? 訳がわからない。
私は泣きそうになったけど、グッと堪えた。
「なんだ、泣かないのか?」
「泣いたらしゅう君、『悲劇のヒロイン気取りか? そして俺は悪者か? これだから美少女は嫌いなんだよ』とか言うつもりでしょ?」
「…………」
無言って事は正解かいっ! うわっ、最低!
「……もう、俺に話かけるな。近づくな」
「それは無理ですよー。話かける。近づきます」
「何故だ? 俺は最低だろ?」
「んー。最低だけど、私はしゅう君の事がだいしゅきー」
しゅう君は目を丸くした。初めて見た。
「意味が分からん。俺の何処がいいんだ?」
「私を助けてくれた」
「それだけで?」
「しゅう君は美少女に興味がない」
「美少女にはウンザリしているからな」
ウンザリ? しゅう君って何処かでモテモテだった? フツメンなのに?
「お前、今失礼な事考えているだろ?」
「失礼なのはお互い様だよ。私の生まれて初めての告白をウザいって切り捨てたじゃない」
「むっ……初めてだったのか、それは悪かった」
「なら、私を好きって言って彼女にしてくれたら許します」
「……お前は馬鹿なのか。それは断る」
「えー。私は自他共に認める学園一の美少女だよ。出血大サービス中だよ。今がチャンスだよ」
「要らない。美少女はお断りだ」
美少女はお断り……それなら!
「……変顔してもお断りだ。それと変顔はやめた方がいい。お前の美しい顔が台無しだ」
「……ねぇ、しゅう君、さっきから美少女とか美しい顔とか言っているけど、分かってる?」
「何を言っている? 分かってる? その意味が分からない」
「うわっ。しゅう君、天然だ! 女の子に美少女とか美しい顔とか言うと好きになっちゃうよ」
「そうか……なるほど、そうだったのか……以後気をつけよう」
しゅう君の過去に何があったのか分からないけど、きっとモテモテの人生だ!
「話は終わりだな。帰る」
「待って」
「なんだ?」
「ありがとう……」
「勘違いするな。お前を助けたつもりはない」
もう、しゅう君素敵すぎだよ! 男だよ! 最高だよ!
「ねぇねぇ、しゅう君、一緒に帰ろっ!」
「断る! それにしゅう君と呼ぶな!」
恥ずかしいのかな? 可愛い。
「それなら、しゅう様? ご主人様? 旦那様?」
「西園寺と言うのは無いのか?」
「ありませーん」
「ちっ。これだから美少女は嫌いだ。自己中すぎる。くそっ……しゅう君で頼む……」
「了解です! しゅう君。帰ろっか」
「一人で帰れ!」
結局この日は別々に帰った。数日経つと飽きたのか誰もしゅう君のうん◯事件の事は言わなくなった。
もし私のオナラだったら卒業まで噂話になっていたと思う。
もう私はしゅう君にメロメロ。大好き!
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