学園一の美少女の私がぼっち君に恋をした

さとうはるき

第1話 ぼっち君に恋しました。

 私は桐生ルリ十八歳。高校三年生。自他共に認める学園一の美少女。サラサラの黒髪ストレート。長さは腰付近。女子から綺麗な髪だと羨ましがられている。

 体もちょっと自慢。私と話をする男子は必ず一度は胸を見る。

 今は朝のホームルームが終わったところ。私は窓側の一番後ろの席。クラスメイトがチラチラと私を見ている。学園一の美少女だから仕方ないよね。

 でも一人だけ、私を見ない奴がいる。隣の席にいる男の子。名前は知らない。三年生になって初めて同じクラスになった。

 昨日から三年生になったけど隣の男の子はクラスの誰とも話をしていない。誰も彼に話しかけてこない。お昼は一人で食べていた。もしかして友達のいないぼっち君?


 フフフッ。ここは私の出番ね。学園一の美少女の私から話しかけてあげる。ぼっち君、光栄に思いなさい。


 私は椅子を引いてぼっち君の方へ体ごと向いた。


「えっと、初めまして。私は桐生きりゅうルリって言います。よろしくね」


 そう言って私は可愛く微笑んだ。


 どう、どう? 完璧じゃない? 小説によくある、『隣の席の美少女がぼっちの俺に話しかけてきた』って感じじゃない?


 ぼっち君には最高のシチュエーションだよね? もしかして私に惚れた? 私って罪な美少女よね〜。


 私はそんな事を考えていた。でもぼっち君はコチラを見ない。ボーと前を向いている。


 アレ? 聞こえなかった? あっ、美少女に話しかけられて恥ずかしがっているんだ。可愛い奴め。仕方ないなぁ。もう一回話しかけてア、ゲ、ル。


「もしもーし。聞こえてますかー? おーい」


 私は両手を口に当て可愛い声でぼっち君に話しかけた。彼はコチラをチラッと見てまた前を向いた。


 今、私を見たよね? 無視ですか? なにコイツ。私を無視するなんて。美少女の私が話しかけてあげているのに!


 私は無視されてイラッときた。声をかけて無視された事は人生で一度もない。


「ねぇ、学園一の美少女の私が話しかけてあげているのに無視なんて、あなた何様?」


 私がそう言ったらぼっち君はコチラを向いた。


「学園一の美少女? だから何? 美少女から話しかけられて俺が嬉しいとでも思っているのか? めでたい奴だな。お前、ゴミだな」


 ぼっち君は私を汚物を見るような目で見ている。


 ——なっ、なんですって! 私がゴミ⁉︎ 学園一の美少女と言われている私がゴミ⁉︎ なんなのコイツ!

 あっ、そっかなるほどね。私の気を引こうとしているのね。『俺は他の男とは違うぜ』アピールだ。

 もうっ、可愛いってホント罪ね。言いたくもない事を言わせるなんて。

 仕方ないなぁ。私、ルリちゃんは心が広いんだぞ。ゴミと言ったことは許してあげる。


「もう、ゴミって酷いなぁ。ねぇ、あなたの名前を教えて。私は自己紹介したんだからねっ」


 私は甘ったるい声で優しく話しかけた。こんな声を出させるなんて……お主、なかなかやるわね。


 ぼっち君は蔑んだ目で私を見ている。そして返答する事なく前を向いた。


 ちょっと、何故に無視⁉︎ どうして? 意味分かんない。


「ねぇ、無視は酷くない?」

「はぁ……」


 ぼっち君はため息をついた。話しかけてため息を吐かれた事も人生で一度もない。ホントに何なのコイツ。


「お前、自分は『美少女で勝ち組』とか思って天狗になっているだろ?」

「おっ、思ってないわよ。天狗になんてなっていないわよ」

「いや、思っているね。そもそもお前の様な美少女は糞の役にも立たない」


 糞⁉︎ 今度は糞ですか! あっ、でも私の事は美少女って認めるのね。なんか複雑。私はぼっち君から言わせると『糞の美少女』……イヤァァァ! それは嫌ぁぁぁ!


 ……ふっ、もういい。もういいわ。このぼっち君。ぜったい私に惚れさせてやる! 本気を出せばイチコロなんだから。私に惚れない男なんていないんだから!


 ——※※※——


 それから一週間、私は毎日ぼっち君に話しかけた。毎日、毎日、毎日。時間さえあれば話しかけた。

 ぼっち君の名前も分かった。西園寺修造。十八歳。私と同じ四月生まれ。おじいちゃんと二人暮らし。

 見た目はイケメンではなく、何処にでもいそうなフツメン。おそらく社会人になって、同窓会で会っても誰か思い出せないでしょうね。

 そしてぼっち君、西園寺修造は私が毎日話しかけているにも関わらず無視を続けた。無視、無視、無視された。

 話をしたのは最初だけ。その後は私が話しかけるとチラッと見てすぐに目を逸らす。

 その目は蔑んだ目。毎日心が折れそうになる。でも私は頑張った。無視されても話かけ続けた。


 そして一週間後、私は心が折れた。もう無理です。このぼっち君は最強だ。西園寺君の言うように美少女なんて糞の役にも立たない。

 私は『糞の美少女』……もう西園寺君の事は諦めよう。そう思った。


 ん? 諦める? あれ? 何この気持ち……この胸が締め付けられる様な感情は……

 ……私、もしかして西園寺君の事を好きになってる? イヤイヤ、あり得ない。フツメンのぼっち君。私を無視するぼっち君だよ? 糞の美少女って言った男の子だよ?

 あっ、西園寺君は糞の美少女とは言ってないか。『美少女は糞の役にも立たない』だった。


 美少女に見向きもしない男の子。私の初めての存在。ぼっちって孤高の人だよね。……やだっ、カッコいい。


 これはもう認めるしかないわね。私は西園寺修造君が好き。大好き!

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