500万円の1週間
そよかぜ
第1日目 兄の提案
”
ある晴れた日の昼下がり、
”なに?なんか用?私、今忙しいんだけど”
と、スマホに目をやったまま私は冷たく兄ちゃんにそう答えた。
”真剣な話なんだ。こっちに来て話を聞いてくれないか?”
という兄ちゃんの声が
何だかそんな兄ちゃんが怖かった。
”分かった、今そっち行くよ”
話を聞かないと兄ちゃんは、もっと怖くなっちゃうんじゃないかって思った。だから私はスマホをいじる手を止め、座っていたソファーの上にスマホを置き、兄ちゃんのいるであろう子供部屋へ向かった。
子供部屋へ向かうと兄ちゃんはクッションの横で正座をして私を待っていた。
兄ちゃんの横にある淡い青色をしたクッションは思い出の品。
あれはそう…去年の今頃、まだ兄ちゃんと普通に喋れていた頃家族で水族館へ行った帰りに兄ちゃんが買ってくれたものなんだ。
売店で見つけた時、一目で気に入っちゃったんだ。買おうと思ったんだけど思ったより高くて泣く泣く諦めた。
あぁ、さっきタピオカなんて飲まなきゃよかった。そしたら今頃あのクッションは私のものになったのに
本気で後悔した。
テンションがダダ下がりのまま家に帰り、部屋に閉じこもった。
そしたら兄ちゃんが部屋に入ってきた。
”なに?!勝手に入ってこないでよ!!!”
”ん、これやる。欲しかったんだろ?”
そう言って兄ちゃんはあのクッションを渡してくれた。
”えっ?どうして?!これどうして?!”
”えっ?どうしてって、空美これ欲しかったんだろ?売店の前ですごくウジウジしてたじゃん。兄ちゃんが買ってきてやったから大事に使えよ?”
”兄ちゃん…!!!ありがとうっ!”
そんな思い出のクッションの隣に座る兄ちゃんの顔は見たことの無いくらい難しい顔をしていた。
”どうしたの?兄ちゃん、なんか困り事??”
そう聞いた。
兄ちゃんは口を開こうとしなかった。
だけど顔はさっきと変わり、決意したかのような硬い表情に変わっていた。
”ねぇっ!私聞いてるんだけど!?何か言ってよ!!!”
ドサッ…
兄ちゃんは無言で、お金の束を数個、机の上に出した。
”へっ?!何これ?!”
ざっと数えても500万円はありそうだ。
”空美…これでお前のこと買わせてくれ足りないんならもっとお金用意するから…”
”はぁぁぁぁ?!ちょっと何言ってんの?!!!私を買う!?はぁ?何言っちゃってんの?!”
”あっいや…実際にお前を買うってことじゃないんだ。お前と過ごす時間が欲しいんだ。その時間をこのお金で買いたいんだ。このお金で1週間、1週間だけ俺と一緒に過ごしてくれないか?”
”えっ?あっ何そういう事か…あーよかった。兄ちゃん、急に私を買うとか言い出すから頭どうかしちゃったのかと思ったよ。でもだったらお金なんて必要なくない?私に一緒にいて〜とか言えばいいだけの話じゃん!?どうしてこんな大金出してまで私の時間を買いたいの?”
”理由は…聞かないでくれ。言いたくない。いや、理由なんてないんだ。ただ俺が空美と一緒にいたいだけ、そして俺が空美といることで空美の時間を奪うことになるんだからお金を払うのは当たり前なんだよ。”
なんか理由が理由になっていない気がする。
だけど兄ちゃんがそういうのならそうなのかな。
うーんどうなんだろう。
私は兄ちゃんの考えが間違ってる気がするけど、当たり前って兄ちゃんは言ってるしな…兄ちゃんの考えは間違っていることは無かったから正しいのか。
兄ちゃんが間違ってることなんてそうそう無いし…。
じゃあ私はこのお金受け取らないといけないのか!
”そっか、理由ないんだね。分かった!!
…うん、いいよ。私の時間これで兄ちゃんに売ってあげる。今日から1週間?それとも明日からにする?”
”ありがとう空美…。じゃあ今日からにしようかな。って言ってももう今日はもう半分しか残っていないけどな(笑)そうそう、このお金は空美のもんになったからな。大事に使ってくれよ?”
”分かった。ありがとう、兄ちゃん。”
”よしっじゃあ出かけますか!!!”
”へっ?!今から!?もう午後だけど?!雨降ってるけど?!”
”大丈夫、大丈夫!!!なんとかなるさ!”
”なんとかって…”
こうなった兄ちゃんはもう誰にも止められない。兄ちゃんについて行くしかない。
兄ちゃんの能天気さに苦笑しながら私は出かける準備を整えた。
”じゃあしゅっぱーつ!!!”
兄ちゃんと一緒に家を出て、街に向かって歩いて行った。
そういえば何年ぶりだろう。
こうやって兄ちゃんと一緒に歩くの。
昔は兄ちゃんが大好きで大好きでずっとあとをつけて歩いたのに、ある時ピタッと兄ちゃんの後を追わなくなった。
友達だっていたし、何より恥ずかしかったし。
何だか嬉しいな。
あの時に戻れたみたい。
”あーちょっと待ってよ!!!置いてかないでぇ!”
”遅いぞ!空美!!!早く行かないと日が暮れちまうw”
慌てて私は兄ちゃんを追いかけた。
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