第34話 待てば懐炉の日和あり

 未咲「この道は、誰かが通ったからできたんだよね……」


 なにげなく、休日に外に出てみる。


 未咲「ここ最近ずっと寒いなぁ……あったかい話題もないし……」


 冷えは末端まできていて、寒さ対策に余念がない。


 未咲「おや……あそこにいるのは……?」


 見知った長い髪。玲香ちゃんだった。


 玲香「……未咲!」

 未咲「玲香ちゃん……その恰好なに?」


 玲香ちゃんの服装から醸し出される、ダークな雰囲気。

 いわゆるゴスロリ、っていうのかな。当の本人さんは顔を真っ赤にしている。


 玲香「こここ、これはその、興味本位で着てみただけで……!」

 未咲「へぇ、玲香ちゃんにもそういう趣味あったんだ~、ちょっと意外」

 玲香「だからぁ……!」


 泣きそうな顔をしてこちらをずっと見ていた。まったく可愛いんだから。


 未咲「あははっ……もう、玲香ちゃんってほんと玲香ちゃんだね。

    なんだかきょうとっても冷えるのに、ちょっとあったかくなったかも」

 玲香「あんたそれ、前にも似たようなこと言ってたわよね……?」


 よく覚えている。


 未咲「懐にしまってる懐炉も用無しだよ……罪作りだねぇ、玲香ちゃんっ☆」

 玲香「ウインクなんてしても可愛くないからね?」


 そうこうしていると、さっきまで曇っていた空もだんだん輝きだして……。


 未咲「あっ、なんだかほんとにあったかくなってきたかも……

    玲香ちゃんのおかげかどうかは知らないけど、とにかくよかった……」

 玲香「わたしは全然よくないけどね」


 こんな恰好を見られた日には、見た本人のことを殴りたくなってくる。

 もちろんそんなことはしない。気持ちが勝手にそうなるだけで。


 未咲「これからもよろしくね、玲香ちゃん!」

 玲香「どさくさに紛れてキスしようとすんなっ……! もう、離れなさい!」


 まるでどこか春みたいな、冬の一日だった。

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