あいすくーる! - School of Winter! - 2

01♨

第1話 はじめまして、大島 瑞穂です!

 この街に越してきて、一週間が経とうとしていた。

 これからわたしはこの街に住んで、新しい学校に行く。


 瑞穂「はぁ~ぁ……なんか、こんなだったかな……」


 わたしが住んでたところは、こんなに寒くなかった。まだ暖かかった。

 これだと出すべきものも出せない。いつだって元気でいたいのに。


 きょうはこの街をよく知ろうと、ひとり散策をしていた。

 製鉄所のほうまで歩いたところで、わたしはきゅうに足を止めた。

 おのずと呼吸がみだれる。来る――あれが来る……っ!


 瑞穂「きゃうんっ!」


 ヘンな声が出てしまった。そのときは、突然訪れたみたいだった。

 わたしはよく公共の場所でやってしまう。きょうもがまん、できなかった……。

 誰かに聞かれたり、見られたりしなかったかな……。


 瑞穂「ちょっと、ぬれちゃってる……」


 被害は小さかったけど、たしかにそこを濡らしていた。

 さわらなくっても、わかってしまう。もうさすがに慣れてしまった。

 おまけにちんちくりん。これじゃみんなに笑われる。


 瑞穂「名前負け、してるよね……ほんと、わたしって……」


 めげそうになったけど、いよいよあしたから学校に行かなきゃいけない。

 くよくよなんてしていられない。がんばらないと!


 瑞穂「これをキメて……これさえあればっ……!」


 ♦


 ところ変わって。


 未咲「おじいちゃん、おばあちゃん、ことしも来たよ」


 いま、わたしはお墓の前にいる。お供え物を準備して、ここに来た。

 悲しいことのはずなのに、なぜかやさしい顔になるのはなんでなんだろう。


 未咲「いつも見守ってくれてありがとう。わたし、毎日元気に過ごしてるよ」


 そうは言っても、やっぱりちょっぴり思い出すこともあって。


 未咲「わたしがよく失敗してたころ、おじいちゃん、いっつもわたしの……

    ううん、なんでもない。わたしが我慢できないのがいけないんだよね」


 いまだってそうだし。


 未咲「まめにトイレに行くようにはしてるんだけど、やっぱりなおんなくて」


 こないだ、ついに小さいころぶりにおねしょデビューしてしまった。

 いろいろ気をつけているはずなのに、どうしてなんだろう……。


 未咲「ふたりの生まれたところ、あったかそうでいいなぁ……」


 実際そうだったらしい。写真で残しておいてくれていて、さながら南国だった。

 というか、完全にそうだったみたい。


 未咲「んんっ」


 耐えがたい寒さに、思わずぶるっと震えて足をきゅっと閉じる。

 乙女にとってよくない瞬間が、いままさに訪れようとしていた。

 そのとき、わたしは不覚にも妄想の世界に入り込んでしまった。


 ――


 海に囲まれた島。そこに、わたしがひとり。とても開放的な気分になっている。


 未咲「わー、きれーい!」


 クリアな海水に、目は吸い込まれる。たまらず泳ぎたくなって、水着を用意。


 未咲「よーし、泳ぐぞー!」


 ざっぱーん。水しぶきが、四方に散ってもとのところに戻る。


 未咲「んー、さいこー!」


 玲香ちゃんもここに呼べたら、もっと最高なんだけどな……。


 未咲「(ふるふるっ)」


 元気がありあまったのか、下のほうにも出てきてしまったみたい。


 未咲「(ここでやっちゃっても、きっと誰も見てないし大丈夫だよね)」


 そう思ってしまった。それがすべての間違いだった。

 現実側から見たわたしは、もう引き返せない状態になり始めていた。


 ――


 くぐもった音が、墓地のあたりをいやらしい雰囲気にしていくようだった。

 さながら墓地に迷い込んだ野良犬かなんかが、誤って小水をひっかけるように。


 未咲「(もうちょっと、だけ……おねがい、だれもこないで!)」


 妄想の世界では、ほとんど大丈夫。だけど、現実はそういくとは限らない。

 そのときのわたしは、こんな単純なことにすら気づけていなかった。

 ただひたすら排泄の悦びにひたるばかりで、それ以外は考えられなかった。


 未咲「(あとちょっと、だから……)」


 言うまでもなく下着はすでに水びたし状態で、即刻脱ぐべきだった。

 むろんまったく気づいていないので、手にかけようとすら思わなかったけど。


 最後の一滴がするまで、わたしはそこでひとりしゃがんで用を足し続けた。

 赤面するのは、そのあと同じく墓参りにきた人に声をかけられたときだった。


 ♦


 未咲「おっはよーれいかちゃ……あれっ、きょうはお休み?」

 ロコ「そうみたいだよ~。風邪ひいちゃったんだってー」

 未咲「そっかー、ざんねん」

 春泉「ね、ねぇ、ミサキ……」

 未咲「どうしたの、はる……みちゃん?!」


 呼ばれたほうを向くと、春泉ちゃんはわたしに向けてパンツを晒していた。


 春泉「ここ、よーく見てて」

 未咲「おぉっ……?」


 言われたとおり見ると、春泉ちゃんのクロッチはみるみる黄色くなっていく。

 さらにその部分はひくひくして、春泉ちゃんとはまるで別の生物みたいだった。


 春泉「えへへっ……やっぱりハルミ、さいきんヘンだよぉ……♡」

 未咲「うそみたいだよ……こんなの春泉ちゃんじゃない!」


 いつもはまじめ (?) な生徒会の子ってかんじなのに、きょうはどこか変則的だ。

 目の下をよく見るとうっすらクマっぽいのができてる。もしかして……


 未咲「きのうの夜、なにしてたの?」

 春泉「スマホでとったミサキの恥ずかしいところ、おもらしの練習!」

 未咲「いつ撮ったのー?!」


 春泉ちゃん、いつの間にかわたしよりへんたいになってるっぽい?


 春泉「ほら見て、ミサキ。これ、『あいえき』っていうの」

 未咲「そっ、それくらい知ってるよ!」


 ついかぁぁっとなった。


 大西「はーい、みなさん席についてください」

 未咲「もうついてまーす」

 うみ「口答えだし、嘘もつくなよ……」


 未咲だけが立っていた(立つ、とはもちろんそういう意味合いではない)。


 大西「枇杷さんはきょうはお休みです。風邪を引いたとの連絡をいただきました」

 未咲「それも知ってまーす」

 うみ「んなこと言わなくていいだろ……」


 未咲、もしかしていわゆる反抗期ってやつなのか……?

 つーか、なんかどこからともなく甘いにおいがするんだけど、それも未咲からか?


 大西「そして、きょうから新しく転校生が来ることになりました」


 一瞬だけ教室がざわめく。おさまったタイミングで、先生が再び話し出す。


 大西「先生もおどろきました。

    彼女の苗字、どこかで見覚えがあると思えばあの人の娘さんでした」

 未咲「あの人……?」

 大西「かつてみなさんが女性アイドルの話をしていたときに

    名前を挙げさせていただいた、その彼女のお子様が来るそうです」

 うみ「たしかその彼女の苗字、オオシマ、とかじゃなかったか?」

 大西「覚えていましたか。はい、そうです。表記は奄美大島のオオシマさんです」


 そのときだった。


 玲香「おはよう、ございます……」

 大西「あら……?

    枇杷さん、登校してくれたのは嬉しいですけど、大丈夫ですか……?」

 玲香「はい……気にしないでください……」


 いつにもなくげんなりしている。風邪をひいたのとはまたちがうみたい。

 もしほんとうに風邪だったら家で安静にしておくべきだし、

 玲香ちゃんだったらぜったいにそうすると思う。

 だけどいま、玲香ちゃんはここにいた。

 よく見ると顔が赤く、熱っぽい。風邪に見えてもなんらおかしくはない。


 玲香「よっこい、しょ……」

 未咲「なんか、すわるのも一苦労ってかんじだね……」

 玲香「無理もないわよ……あんなことされたあとじゃ……」

 未咲「?」


 顔を赤くしたまま、玲香ちゃんはついにしばらく何もしゃべらなかった。


 ♦


 瑞穂「チャオ!」

 うみ「(なんか微妙に春泉と被っている気が……)」


 転校生の紹介が終わり、瑞穂のとなりに位置するうみが異変に気付く。


 うみ「なぁ、瑞穂、とかいったか……お前、なんかヘンだぞ」

 瑞穂「なんですか、あなた?」

 うみ「あたし気づいたんだよ、お前からただよい続けているなにかに」

 瑞穂「うそはよくないですよ。わたし、なーんにもかくしてませんし」

 うみ「いーやあたしにはわかる。お前のそのテンション、異常だ」

 瑞穂「そっ、そんなことないです!」


 この一言でうそであることが、あっさりみんなにばれてしまう瑞穂であった。


 瑞穂「じつは、ここに来るまでに栄養ドリンク二、三本キメちゃいました……」

 うみ「ほらな。ごまかせないんだって、そういうの」

 瑞穂「ちゃっちゃかちゃっちゃかはしちゃうんですけど、これさえあれば

    なんでものりこえられそうで、よく飲んでるんです。だめ、ですかね?」

 うみ「ああ、だめだな。一日一本ってここ読めばちゃんと書いてあるし、

    それを超えて使用していいなんて勝手に決めるのはよくないぞ」

 瑞穂「人づきあいとか苦手で……これの力を借りて、いまもしゃべってます」

 うみ「そうだとしても、せめて用量は守ろうな」

 瑞穂「はい!」


 このふたりは、あっという間に仲がよさそうな感じになっていった。


 瑞穂「そういえばここに来る前、みたらしくれたのってもしかしてあの子?」

 うみ「そう、なんじゃないか?」


 瑞穂は未咲を指差し言った。未咲はここで知り合ってから何もかわってない。

 こんなことをいうあたしもかつて、その洗礼(?)を受けたからな。

 未咲の出した液体を飲んだのも、それから間もなくだった。甘かった……。


 瑞穂「あと、玲香? って子、さっきから様子がヘンだけど……いいの?」

 うみ「……しゃーねー、声掛けっか」


 近寄るなオーラが半端なかったけど、何もしないわけにもいかず。


 うみ「うわっ!」


 時すでに遅し。玲香の足元が、かなり大変なことになっていた。

 あたりに立ち込めるアンモニア臭が、すべてを物語っているみたいだった。


 玲香「いやっ……たすけて……」


 誰も何もしていないはずなのに、そんなことを口にする玲香。

 わけを訊かずにはいられなかった。


 うみ「おいどうしたんだよ、玲香」

 玲香「じつは今朝、学校に間に合わなさそうな時間に目が覚めて……

    トイレに行かないで学校行こうとしたの、そしたら、そしたらね……」


 すすり泣いているようだった。気づくのが遅くなってしまったけれど。


 玲香「電車の中で襲われてる最中はこわくて、その……

    少し、しちゃった……そのとき、と思う……」


 その女の人が?

 どこか子どもがしゃべっているみたいだった。もしくは怯える小動物みたいに。


 うみ「で、そのまま学校に来たと」

 玲香「そう、なの……」

 うみ「それはつらかったな……見知らぬ女の人に股間をまさぐられて、

    挙句の果てに排泄まで促されて自分の下着を黄色く汚してしまうなんて」

 玲香「はっきり言わなくたって……でしょっ」


 配慮が足りなかった。


 うみ「さすがに嫌だったよな?」

 玲香「えぇ、でも仕方ないわ……この世界に希望を持てない人は、

    こうすることで心身のバランスを整えてるみたいだから……」

 うみ「そうは言ってもなぁ……」


 玲香は再び泣き、さらに残りのぶんまで排泄した。

 床が水びたしになり、その片づけは未咲がすべてやってくれた。


 未咲「溜まってたのかな……もちろんいけないことだけど、

    やりたい気持ちはわからないでもないよ。わたしもしたいもん」

 玲香「あんたは無神経すぎんのよっ!」


 思いっきり泣かれてしまった。未咲も余計なこと言わなきゃいいのに。


 未咲「ほんとだよー。玲香ちゃんかわいいし、かわいいしかわいいから

    かわいいことしたって、かわいく許してくれそうかなって」

 玲香「ゆるさない……」

 うみ「おーい、誰かこいつを止めてくれー!」


 ♦


 大西「瑞穂さんのお母様、元気にされているでしょうか?」

 瑞穂「はい! それはもう!

    ファンだったって聞いたら、母は喜ぶと思います!」

 大西「よかったです」


 未咲「きょうの献立かぼちゃスープだって! おいしそう!」

 春泉「ハルミ、カボチャはちょっとニガテだった……」

 うみ「(いまはいけんのかな)」


 ロコ「(はわわわ……きょう、ふたりもおもらししちゃってる……)」


 うみ「瑞穂って背ひっくいなー」

 瑞穂「ちっちゃくない! むむムネだって、これからおっきくなる予定だし!」

 うみ「胸のことは言ってないんだけどな……」


 これからまた少しだけ、にぎやかになりそうだ。

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