第13話 変わり果てた楽園
「う、うわあ……」
サーバーダウンで不安定になっていた悪魔の坑道で
だけどそれから焼けた森の中を進むにつれ、そこに広がる光景を目にして僕は思わず
焼け落ちた森は次第に、無数の倒木が積み重なって横たわる不毛の荒野へと様相を変えていった。
明らかに異常なその様子に僕以外の皆も一様に言葉を失っていたけれど、ブレイディは1人近くの倒木に駆け寄っていく。
「これは……」
倒木の側にしゃがみこんだ彼女はそう言うと、朽ちた倒木の表皮に触れた。
途端に倒木は細かい点滅を繰り返す。
それを見たアビーがブレイディのすぐ隣に駆け寄り、2人は顔を見合わせた。
「どうしたの? 2人とも」
そう
「サーバーダウンの原因は~」
「おそらくDDOS攻撃の
ん?
何それ?
「大量の情報を意図的に送りつけて~相手の機能に過度な負担を与える方法です~」
「このゲームそのものが外部から何者かのサイバー攻撃を受けて、そのせいでサーバーがダウンすることになったんだ」
難しいことは分からないけれど、このゲームをこんな状況に追い込んだ犯人がいるってことか。
非常にマズイ状況だった。
そして事態は好転する
「だめだ。何度アクセスしても我が主に
地上に出てすぐに神様への通信を試みたブレイディだけど、神様への連絡はつかなかった。
アビーやエマさんがやってみても結果は同じだった。
「恐れていたことだけど、このゲーム内ではプレイヤーの立場である我が主は、先ほどの天使たちと同様にこのゲーム内での活動が出来なくなっているんだろう。おそらく今頃はゲームから強制排出されているかもしれない」
だから連絡がつかないのか。
その話に僕は心細さを覚えずにはいられなかった。
神様がいない。
困った人だけど、いざという時の頼り
そんな神様がいなくなってしまったということは、太い
そして……。
僕は隣に立つノアに目を向けた。
「ノア。さっき言った神様のことなんだけど……」
外に出たら神様に連絡をしてノアの母親のことを聞くと約束した僕だけど、肝心の神様がサーバーダウンの影響でプレイヤーとして現在のこのゲームから排除されてしまった。
もちろんノアとの約束を
だけどノアは不満を
「状況は理解しておる。人探しなどしておる場合ではないのだろう。そのぐらいノアも心得ておるわ。見くびるでない」
「ノア……僕、君に約束したことは必ず守るよ」
そう言う僕にノアは当然だと
「結果はどうあれ、そなたが約束を実行に移すことは信じておる。そういう男でなければ、あの筋肉バカに付きおうてノアとの戦いに参加するような面倒で馬鹿馬鹿しい
「誰が筋肉バカだって?」
すぐ後ろに立つヴィクトリアが不機嫌そうに言ってくるけれど、ノアは平然と言葉を返す。
「そなたしかおるまい。聞こえておったのか?」
「聞こえるように言ってんだろうが。クソガキめ」
2人は
もしかしたら先日のヴィクトリアとノアの白熱した戦いが、お互いの間の
それに皆、分かってるんだ。
この危機的状況下では協力し合うほかないということを。
いかに個々の力に優れた彼女たちでも、1人で出来ることは限られてくる。
反目し合っていたヴィクトリアとノアも、敵がどこから襲ってくるか分からないこの状況では、互いの力が必要になることを感じているんだ。
その雰囲気を感じ取った僕は意を決してミランダに言った。
「すぐにジェネットとアリアナを助けに行こう。彼女たちはきっと僕らの助けを必要としているし、僕らも彼女たちの助けが必要だよ」
僕の言葉を聞いたミランダはほんの
そして再び目を開けると皆に告げる。
「いいえ、天樹の塔に攻め込む前に、転移装置があったあの村に向かうわよ。この状況で転移装置がまともに使えるかどうか分からないけれど、脱出経路は確保しておく必要があるわ」
決然とそう言うミランダにブレイディが追随する。
「そうだね。もしかしたらこの先、サーバーが復旧するかもしれないし、その際に転移装置が使えるかもしれない。それがいいと思う」
ブレイディの言葉に
「さて、ここでハッキリさせておきたいんだけど、実際に天樹の中に入ったら息つく間もないほどの戦闘の連続になると思うわ。ここにいる7人のうち、そんな戦闘に耐えられるのは私とヴィクトリア、それからそこにいる竜人娘だと思うけど……」
そう言うとミランダはまずヴィクトリアを見た。
「一番先陣切って戦えそうなのがヴィクトリア、あんただけど。やる気は?」
ミランダがなぜそんなことを問うのか、僕にも意味は分かる。
ミランダがヴィクトリアと共闘するのは初めてだから、背中を預けるのに値する相手か確かめておきたいんだろう。
ミランダの言葉にヴィクトリアは即答で応じる。
「アタシはアルフレッドの用心棒としてここに来た。アルフレッドが無事に元の世界に戻るまでがアタシの仕事だ。そのために天樹を攻めるってんなら、最後まで最前線で戦うさ。戦闘こそアタシの本懐だからな。ウズウズするぜ」
戦意十分のヴィクトリアを見て
「問題はあんたね。本来なら戦力になるんだろうけど、今はフヌケているみたいだし、いつ巨大竜化して大暴れするか分からない状態。ハッキリ言ってお荷物よ」
ちょ、ちょっとミランダ。
ハッキリ言い過ぎでしょ。
「あのねミランダ。ノアは……」
そう言いかけた僕の言葉を
「ノアがお荷物だというのならばらこの場で殺すがいい。ノアが再び暴れ竜になってしまうリスクはそなたらも負いたくはあるまい」
そう言うとノアは
神妙な表情でミランダを見上げるノアを、ミランダも真顔で見下ろした。
「いい度胸じゃない。ハッタリじゃないってところを見せてもらおうかしら」
そう言うとミランダは
ヤバいっ!
止める間もなくミランダの
あ、危なかった。
だけどノアは恐れることも怒ることもなく微動だにせずにミランダを見据え、ミランダもそんなノアを静かに見下ろしている。
「フン。死ぬ覚悟は出来ているみたいね。ならその覚悟を活かして力を貸しなさい。そこにいるアホ
アホ
僕のことか……?
僕のことかぁぁぁぁ!
僕のことですね。
「そいつはね、私があんたを見捨てようとした時に生意気にも反対したのよ。あんたを元の世界に連れて帰るんだって言い張ってね。アホでしょ。でもそのアホのおかげであんたは今ここにいる。そいつがあんたを連れてこなけりゃ今頃またどこかで巨大竜になって暴れていたかもしれないわね」
ミランダ……。
「あやつに感謝せよ……ということか」
「いいえ。全然。むしろおまえはアホだなって笑ってやりなさいよ」
ミランダ……。
「そうか……」
ノアはそう言うと目の前に置いた
そして静かに、だけどしっかりとした足取りで立ち上がる。
そして彼女は僕を見つめた。
「再びこの槍を振るう理由が出来たな」
そう言ってノアは口元にかすかに笑みを浮かべた。
それからノアはミランダとヴィクトリアに目を向けて槍を反転させると、その切っ先を自らの
「万が一ノアが再び暴れ竜に落ちぶれたその時は、そなたらの手で容赦なくノアを
そう言うノアにミランダとヴィクトリアはニヤリと笑みを浮かべた。
「言われなくてもやるわよ。容赦なくね」
「当然だ。おまえを仕留めるのはアタシの役目だからな」
皆が同じ方向を向いた。
僕はそんな彼女たちを見て、胸の中に勇気の火が
それから僕らは最初の村を目指して、倒木だらけの森を北上し始めたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます