だって僕はNPCだから 3rd GAME
枕崎 純之助
序章 栄光のホログラム
こんにちは。
僕、アルフレッド・シュヴァルトシュタインです。
今日も僕はこの
前回までのお話を知っている人もいると思うけど、僕はこのゲーム世界の片隅で一人のNPCとしてひっそりと……
「こらっ! アリアナ! 私の許可なく
「だ、だって、さっきの
「だったら出て行け! ここは私の
……ひっそりと過ごしているはずだったんだけど、最近は隣人が増えて、良くも悪くもあまり静かな暮らしではなくなっている。
元々この
でもそれから色々とあって、今では光の聖女ジェネットと氷の魔道拳士アリアナという2人の少女も共に暮らすこととなり、だいぶ
え?
女子3人と暮らすなんて、
いやいや分かってないな。
そりゃ彼女たちが普通のか弱い女の子だったらそうかもしれないけれど、3人とも恐ろしいほど腕の立つ達人だし、何と言うか三者三様でちょっとズレてるところがあるから、一緒にいると色々苦労もあるんだよ。
とにかく彼女たちは僕みたいな凡人には手に余る強烈な個性の持ち主なんだ。
今だってああして気の強いミランダが気弱なアリアナを口うるさく
実は今から15分くらい前に一人のプレイヤーがここを訪れてミランダに挑戦したんだ。
これに対してミランダは彼女の得意とする暗黒魔法・
燃え盛る炎の球が
彼女の得意魔法であるフィールド系魔法の『
で、さっきのミランダの怒声ってわけ。
黒衣に身を包んだミランダが金色に輝く目を光らせて牙をむき、青い道着に身を包んだアリアナが
最近わりとよく見る光景だ。
そんな風にミランダとアリアナが騒いでいると、奥の部屋から大きな平たい箱を両手に抱えたもう一人の少女が歩いてきた。
「騒がしいですよ二人とも。アル様がお困りですから静かにして下さい」
純白の法衣に身を包んだ清らかなその女性は、温かみのある茶色い瞳を騒いでいるに二人に向けながらそう言った。
彼女は光の聖女ジェネット。
僕の大事な友達の一人だ。
僕はそんな彼女が大事そうに抱えている箱に目を止めた。
何だろアレ?
「ジェネット。その荷物どうしたの?」
僕がそう
そして手際よくそれを開封していくと、中から出てきたのは立派な大理石で出来た一枚の板だった。
「これは先日、破滅の女神セクメトの凶行を止め、砂漠都市を救った功績として運営本部から私達へ贈られた品です」
そう。
少し前に僕とミランダとジェネット、そしてアリアナの四人は砂漠都市ジェルスレイムで、ゲーム・システムをも破壊する恐ろしい敵・破滅の女神セクメトと戦い、命からがらこれに勝利したんだ。
その
僕とジェネットがそんな会話を交わしていると、騒いでいたミランダとアリアナもこちらに近寄って来た。
「運営本部が私達に?」
「フンッ。連中からの贈り物なんてどうせロクなもんじゃないわよ。送り返してやりなさい」
そう眉を潜めるアリアナとミランダだったけど、ジェネットはスッと手を伸ばして板の表面に触れた。
するとその板上に緑色の光が走り、板の上に見る見るうちに四つの人影が浮かび上がる。
「おおっ」
僕は思わず声を上げた。
台座の上には本物と
そ、そうか。
この板はホログラムを映し出すための台座なんだ。
「私達の姿を映した記念品ですね」
そう言うジェネットの言葉を聞きながら僕らはマジマジと3Dホログラムを見つめた。
ホログラムは左からミランダ、ジェネット、アリアナと並び、彼女たちが手に手を取り合って戦っているシーンなんだけど……何か違和感があるなぁ。
この三人が手を取り合ってこんな互いを
戦ってる時のミランダはもっとこう、牙をむき出しにしたような怖い顔ですから!
あともう一つ気になる点がある。
「……何で僕だけそんな隅っこなんだ」
三人が勇ましく戦う一方、僕は端の方で四つん
そこは現実的!
何でそこは美化しない!
いや実際ありそうだけど、そこだけリアルを追及してないで、もっと僕を勇ましい姿にしなさいよ。
そんなホログラムを見ながらジェネットはふむふむと
「なるほど。これは台座に触れた者のイメージをホログラム化するものなのですね。では……」
そう言うとジェネットはもう一度台座の表面に手を触れてみる。
途端にホログラムが別のものに書き換わった。
それはジェネットと僕が中心となって勇ましく戦いに
それはいいんだけど問題なのはミランダとアリアナがまるで従者のように
「これはいいですね。私とアル様の巡礼の旅ってところでしょうか。素敵です」
ジェネットは満面の笑みを浮かべてそう言うが、これを見たミランダとアリアナは当然黙っちゃいない。
「ちょっとジェネット! 何で私があんたの子分みたいになってんのよ! ふざけんなっ!」
「ひどいよジェネット。私、一番下っ端の扱い……」
「まあまあ。あくまでもイメージですよイメージ。ふふふ」
悪びれることなく涼しげに笑うジェネットに、ミランダは憤然として台座の前に歩み出る。
「私に貸してみなさい!」
「あっ! 何を……」
ジェネットを押しのけてミランダが台座に手を触れると、再びホログラムが変化する。
次に現れたのは中央でミランダが仁王立ちし、
後方にはジェネットとアリアナが正座をさせられている。
せ、正座って。
二人ともまるで反省させられているみたいな表情だ。
そして僕は……。
「ブッ!」
あろうことか僕は首輪に繋がれ、ミランダの足元に伏せていた。
完全に犬!
そ、そりゃあ世間様からはすっかり魔女の犬などと呼ばれていますが……。
ホログラムのミランダは僕の首輪から延びる鎖を握り、喜色満面だ。
黙っていられず僕は断固抗議した。
「ひどいよミランダ! いくら何でもこんなのって……」
「え? 何よ。あんたまさか…………首輪の色が気に入らないっての?」
そこじゃねえよ!
誰が首輪の色を気にしてんだよ!
「じゃなくて首輪も鎖も犬扱いも全部ひどいよ」
「え? そこ? そこ気にするとこ?」
そこだよ!
気にするべきとこはそこしかないだろ!
何キョトンとしてんだよ!
当たり前のように僕を犬と思ってんじゃないよ。
まったく。
「あんた別にイケメンキャラじゃないんだから、首輪してようが犬扱いだろうがどうでもよくない? 自分をちょっとブサカワ……じゃなくてブサキモな着ぐるみだと思えばいいんじゃないの?」
なぜブサカワをブサキモに言い直した。
ブサキモって何一つプラスイメージがないんですが。
「ミランダ。アル君は犬じゃないよ。もっとカッコイイ扱いにしてあげてよ」
「そうですよミランダ。アル様に失礼です」
正座ポーズの屈辱を受けた女性陣2人も僕に加勢してくれる。
いいぞ!
この無礼な魔女にもっと言ってやれ!
「アル君は顔がイマイチなだけで、心はイケメンだよ!」
「そうです。見た目の冴えなさを補って余りある美しい心の持ち主ですよ。アル様は」
ありがとう。
二人の気持ちは十分に伝わった。
そして僕のルックスが相当イケてないことも読者の皆様に十分に伝わった。
「それより次は私の番ね」
そう言うと今度はアリアナが台座のセンサーに触れて自分のイメージをホログラムに投影させた。
「はあっ? アル。何よこれ」
「アル様……どういうことでしょうか」
「あ、アリアナ? これは一体……」
現れたそれに僕とミランダとジェネットは同時に声を上げる。
いや、これ、だって……。
アリアナのイメージによって現れたのは、目を閉じている彼女を僕が背後から抱き締めているものだった。
ホログラムの僕は抱きしめたアリアナを
唖然とする僕らの前で、アリアナは恥ずかしそうにモジモジしながら口を開く。
「ジェルスレイムで消された私を復活させてくれた時、確かアル君がこんな感じだったかなぁって」
「違います! こんな感じは一切なかったからね?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。これじゃ僕が君にセクハラしてるみたいじゃないか」
誤解されるのでやめて下さい。
「アル」
「アル様」
「ひいっ!」
当然、ミランダとジェネットだ。
彼女たちの怒声が僕の
「アルッ! あ、あんた、あの時いつの間にかアリアナとこんなことしてたの? こ、この変態ドエロNPC!」
「アル様! こ、こんな
セクメトとの激闘の後、不思議な雨によって復元していく砂漠都市で僕がこんなセクハラチックなことをしていたと思ったのか、2人とも物凄い剣幕で僕を
こ、殺されそうなんですけど。
「いや二人とも落ち着いて。これはただのイメージだから。アリアナ。あの時、僕こんなことしてなかったでしょ。よく思い出して?」
必死にそう言い
「う~ん。あの時の記憶が
「そ、そんな……マ、マジですか」
唖然とする僕にミランダとジェネットが詰め寄ってくる。
「なるほど。アリアナが意識
「アル様。道を踏み外してしまいましたね。残念ですが
こらこらこらぁ!
二人とも武器を手に持つな武器を!
「くっ! あんたは要領悪くて度胸も財産もないブサイク男だけど、卑怯な
「くっ! アル様はお顔も冴えず服装も地味でモテ要素ゼロのヘタレ男ですけど、卑劣な行いだけはしないと信じていたのに!」
お願いだから他のことも信じて!
というか二人とも、ジェルスレイムでアリアナが
僕がアリアナにそんなことしてないのは知ってるはず……そうか。
このホログラムのせいで正常な判断力を失っているんだな。
そう思い、僕は台座の表面にサッと手を触れた。
「えいっ!」
「あっ! アル君せっかく……」
アリアナの叫びも
僕のイメージしたそれなら皆のあるべき姿を正確に映し出してくれるはずだっ!
僕は自信満々で台座を背に振り返ると、三人の少女たちを見て言った。
「三人とも自分の都合いいようにイメージし過ぎなんだよ。僕だったらちゃんと公平かつ平和的な……」
そこまで言いかけて僕は三人の少女がアングリと口を開けて唖然としていることに気付いた。
ん?
どうかしましたか?
「ア、アル……あんたって奴は」
「アル様……こんなイメージを頭の中に?」
「アル君……私、何て言ったらいいのか」
僕は彼女たちの異変に気付いて恐る恐る背後を振り返り、そして絶句した。
そこに映し出されていたのは、各々がセクシーな下着に身を包んだミランダとジェネットとアリアナだった。
三人とも惜しげもなく肌を晒して
僕は気が動転して声を裏返した。
「ち、ちがっ……ぼ、ぼぼぼ、僕こんなイメージ一切して無いよ? さ、さっきからこの機械おかしくない? こ、これ不良品でしょ。そうだ! 返品! 返品しないと」
い、いや本当だって。
僕、こんなこと考えてないからね?
いくら僕でもこの状況でこんなイメージは……。
と、そこで僕は周囲三方を三人に囲まれた。
彼女たちの顔にはまるで美しい
「アル。なるほど。人生に自ら幕を下ろす気になったわけね」
「アル様。最後になりますが何か言い残すことはありませんか?」
「アル君。来世ではマジメな人に生まれ変わってね」
はわわわわわわっ!
「ちょ、ちょっと待って。違うんだ。これは間違いなんだよ。い、言い訳を、言い訳をさせ……は、はぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
この後、僕はそりゃもう盛大にバキバキのボキボキのメッタメタにされました。
ごふっ。
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