#035:美麗だな!(あるいは、センターオブジ異世界/閃光)


「うおおおおおおおおおッ!!」


 天空(見た目は宇宙空間だが)から、降り注ぎたるは、現出されし、短剣ナイフやら、「氷の礫」やら、六尺玉やら(玉屋?)。


 その全てを防ぎきるなんてことは到底無理だろう。現に何発か、確実に野郎ネヤロの身体に到達し、衝撃ダメージを確かに与えているように見える。だがそれでも、それでもだ。


野郎の勝ちは揺るがないんだろう……


 冷静に考えてみればわかる。攻撃する側が生命力ライフを削っていろいろなもんを現出させてんだ。それを最初に俺がやったように、「他の二要素で上回る、数値は低いカード」で防いでいけば、防御する側の生命力ライフがどんどん上回っていくのは必至……


 つまりはこの「カードゲーム」、やたらに攻撃を仕掛けた方が必然負けるっていう……そういう仕掛けだったわけだ。そこを見誤っていた。


 野郎はそれを熟知した上で、俺の攻撃のいくつか、「低燃費でいなせるもの」をいなすことで生命数値上で上位に立ち、そのまま押し切ろうとかいう、そんな算段だったのだろう。「法則ルール」という名のトラップ。表立っては現さず、静かに、奥の奥の方で俺を狩るために潜んでいやがった。


 そいつは寸でのところで分かった。


「ぎ、銀閣さんっ!! 薄々気付いてはいると思いますが、数撃ちゃ攻撃の行く末は、自分が追い込まれるというか、待っているのは自滅ですよッ!? このままじゃ……」


<ネヤロ:26 VS ギンカク:11>


 虚空に表示されている数値は、正にののっぴきならないところまで双方、減少している。だがやはり、差は縮まらないどころかまた開いてきていた。


ネコルの言う通りだ。だが……そのからくりは理解はしたのだが、既に時遅しであったし、そもそも「それ」で勝とうなんて思っちゃいなかった。


 俺は俺で、この俺の拳で決着をつける。


「……!!」


 雑多なモノたちが無秩序に降り続く中、俺は、念じることによって浮遊移動することすら出来るようになっていた(ナントゴツゴウー♪)「椅子」ごと、野郎との間合いを詰めていく。落下物を防ぐことに集中していたらしいネヤロは、一瞬、この接近してくる俺への反応が遅れたように見えた。


 唯一自由なこの右腕に、もの言わせてやるぜ……ッ!!(ケレンミー♪)


 衝撃インパクトを最も効率よく伝えることのできる距離は、しょうもない喧嘩に明け暮れた工業高校こうこう時代に体で会得している。コンパクトに振りかぶった右腕が、次の瞬間、いい感じのしなりと巻き込む反時計回りの回転をほんの少し加えながら、その「一点」に向けて加速していく……ッ!!


「ふごっ」


 脂肪が垂れ下がっている左頬に、俺のMP関節部が放り込まれた瞬間、カエルを潰したような声と比喩されるかのような声を上げ、ネヤロは大きくのけぞった。中空に飛び出て来るのは「2」という白い数字。それは、ダメージ数値ってことか。ううぅぅん、どこまでも判りやすぅい……


だがそんな異世界流儀にももう俺は過剰なリアクションは取らない。ネヤロお前の生命力を!! この拳で、確かに削り取ってやるぜぇッ!!


<ネヤロ:18 VS ギンカク:11>


 座ったままさらに体の各処を留められた姿勢での、ままならない拳撃であったものの、上から降り落ち続けている諸々の対処に負われているネヤロは、ほぼノーガードで受け続けているが。


 普段、というか例の「ケレン味」全開時であれば、そのまま押せ押せの気分ムードであった。だが、何か違う。けど、何がどう違うのかは分からない。そうこうしている内にネヤロの残り生命力ライフは<8>。あと何発かで、屠れるッ!!


 刹那……だった。


「『法則:生命力ライフが残り10%を切った場合に限り、見えない『刃』が自動で敵を襲う』……」


 唇の端から血を吹き出させながらも、そこをぐにゃりと笑みのようなかたちに曲げ、ネヤロがそう呟いた。瞬間、俺の振り抜いていた右腕が強い衝撃と共に、俺の視界から。


 すっ飛んでいっていた。


「銀閣さんッ!!」


 ネコルの声が響くまで、自分の身に起きたことへの理解が及ばず、俺は続けざまに右拳を撃ち放っていた。


 今まで確かにあった、その右拳を。だが、力強く振り込んでいたはずのパンチの軌道は俺の網膜では既に認識できず。代わりに赤い水滴が俺の挙動と共に、にやりとしたネヤロの巨顔をドット模様で彩っていくだけだった。


 右肘から先を……持っていかれた……


 やけに綺麗な断面は現実味はあまりなかったものの、認識してしまうと強烈な吐き気を催す絵面であったわけで。


「……ぐ」


 もっと盛大に吹き出すかに思えたが、じんわり傷口を染めた血液は、とろとろと静かに流れ落ちるだけだった。だが次の瞬間、表面から内部にじわじわと向かっていくかのように、痺れるような激痛が襲ってきた。


「……いやはや。『ルール無用』の戦いっぷりは勉強にはなったが、しかし!! 最後に物を言うのはやはり私の『法則ルール』だったというわけだ……カードも使い切り!! そして『丸腰』となったキミに、もはや勝ち目も無い。『爆散』させる前に……その首を落として我が主への手土産にしてやろう……」


 完全に追い込まれた俺の目の前で、殊更に余裕をカマした、野郎ネヤロの粘着質な声がつらつらと流れる。


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