#029:既出だな!(あるいは、完全セーフティ/チャレンジンガーの猫)


 焦土と化した地に……


「……」


 再び立ち上がったのは、どうやら俺ひとりだけのようであった……


 尋常じゃない青白い爆発が、目の先ほんの三寸先ほどの空間で炸裂してからの記憶はばっさりと抜け落ちているものの、単なる舞台装置に過ぎなかったあの、くすんだ白色の石畳は綺麗さっぱり吹き飛んでおり、生々しい地肌が割れ晒している視界のここかしこに漆黒の制服コスチュームが何故か派手に弾け飛んでいる三人娘の倒れ伏している姿が臨めるだけであった。


 「ケレン味」を無効化キャンセルするらしかった「ツンデレ系」を、さらにの凌駕するええと……何て言っていいかは分からないが、正体不明の「熱量」で押し切った。


 もう「法則ルール」とかも……希薄になっちまいやがったな……


 相変わらずな快晴気味のいい気候のもと、冷涼で清浄な風に、土埃にまみれた服や体がさらされていくという、いい感じの心地よさなのだが、そんな一抹の寂寥感をも、心の奥底でじんと感じているのであったあいやそんな事もないか!!


 とにかく「面食らう」ということが、驚く/慌てるという双方の意味で同時に二方向からぐいぐい迫られるというような体験しがたいことを経させられてきたわけで。


 黒女ジウ=オーと戦ったのって今朝未明のことなんだよな……遥か昔のことに感じられるぜ……まだ陽も登りきっていない内から、心の満腹中枢をこれでもかと刺激し尽くされた気分だ……


 刹那……だった……(刹那も満腹気味だが……


 <ハァッハッハッハッハァッ!! 『三人』を屠り切るとはなかなかのものではないかえ……なるほど、『ケレン味』という能力だけならず、まだまだ奥面方向に何かを隠していると、そういうわけなのかえ……>


 三人娘との戦い中は、ほぼほぼ沈黙を守っていたクズミィ神が、思い出したかのように中空にそのビジョンを浮かばせながら、そんな台詞じみた言葉を発してくるのだが。


「約束は……守らないとですよねえ? 他ならぬ、『法則』を司るアナタなら尚更、ねえ……?」


 非常に粘着質かつ挑戦的な口調で述べたのは、俺の額にまだにょきり突き出していた猫首ネコルであった。お? あれほどの殺戮技ひっさつわざをカマしたにも関わらず、割と疲労も見せてねえ流石神……それに何か優位マウント取れてるんじゃね?


 <……言われるまでもないかえ……次は直で決着ケリをつけてやるから、首を洗って待っているがいいかえ……>


 クズミィ神も、テンプレ気味に染まった台詞をそうはお耳にかからねえ語尾で吐き捨てていってから虚空に消えていったのだが、その跡に残されたピンクと紫の中間色みたいな30cmくらい宙に浮いている「扉」が、おそらくは先ほど言っていた「ゲィト」なるものなのだろう……きわめてどこでも行けそうな感のあるドアとしか俺の潜在意識は感知出来てはいないが、それだけに、本物モノホンの空気感はある、と言ったら俺も大分この「異世界」に毒されているのか……


「『離脱リ=ダツィ』ッ!!」


 そんな、すべてがマガオに収束しそうな環境のもと、なぜか凛々しい猫声が響き渡ったかと思うや、


「ッアギョオオオオオオオオオオオオオぉぉぉぉぉンッ!!」


 身体前面を神経末端をおろし金で擦られるような激痛に見舞われながら、ゲル状と化していたネコルがぺりぺりとガムテープを剥がすかのような勢いで剥離していく。剥がれ終わると中空でしゅぱんと元の小さな猫ボディに戻ったのだが、仰向け状態からくるりと猫科独特の平衡感覚で地面に華麗に四つ足で降り立ったのであった。なぜ。


「まあ結果オーライということで、今後の『ケレン味』の存在意義に関しては一考の余地はあろうですが……」


 前肢で顔を洗う仕草に移ると、またそんな興味なさそうな感じでのたまうが。まあいい、俺もここでまた絡む真似をしようものなら、身体が本当に保ちそうにないしな……それにこいつにダメージ肩代わりしてもらってもいたしな……


「さあ!! 気を取り直してあの小娘らから金目類いのモノを奪いて、『ゲィト』をくぐるのです……ッ!!」


 さすが神の切り替え方は神速と言えなくもないが、「門」での移動距離短縮が叶うのならば、おのずと「13日」とか言われていた「制限時間」もこの先、有意義に使うことも可能と言えなくもない……


 であれば、先立つものはより重要度を増してこようもの……


 俺は極めて論理的な思考のもと、いまだ地べたに倒れ伏したまま動きを見せてない三人娘の所へ歩を進める。いや……死んでたりしないよな? いやでもそうなっててもおかしくはないほどの爆破衝撃ではあったが……


 そばに近づくと、紫女サ=エはその整った顔をわずかにせつなげに歪めながら、掠れた鼻にかかった呻き声を上げたので、まあちょっと安心した。真っ黒な制服コスは肝心な部分を残して、執拗に引き裂き破られたような有様になっていたが。いやこんな風に破れることってあるのかよ……だが外傷は見当たらねえし、都合よく衝撃で吹っ飛ばしたのだろうと理解するに留めることにした。あまり考えても詮無いことだらけであるし、ここは。


「ん……」


 と、目を覚ましたようだ。俺は傍らに膝立てると、その制服くろしろ縦縞ストライプ状になっている細身の身体を、よいせと抱き起こしてやる。


「こ……」

「『殺せ』は聞き飽きたぜ。いや、『カードを差し出せば、命だけは取らないでおいてやろう』、こんな風に言った方が収まりはつくか?」(ケレンミー♪)


 うまいことを言ったと思った俺だが、腕の中でうなだれたサ=エは、何よばか……と小声でのたまうばかりだった。が一瞬後、吹っ切ったような自然な表情を俺に向けると、


「『腕輪バングル』には『2枚』しか入れてないんだよね……今まではそれだけで相手を確実に屠ってきたから……でも、そ、その……あんたって結構、強い……のね……」


 ええェ、基本テンプレに忠実過ぎィ……と俺の背後からそんな呆れ猫声がまた聞こえてくるが。何だろう、俺はこの異世界に来てから確実な何かを、この手に掴もうとしている……


「……脚に『予備ケース』着けてるから、それごと持ってっていいよ……私のたいせつなものだけど……あんたになら……」


 潤んだ上目遣いで見られると、どうとも全身がざわついてしまうのだが。だが、鋼の自制心セルフコントロールを体得している俺であれば、この程度いなすことは容易い……


 千切れたスカートの奥、雪白色スノゥワイトの傍ら、黒い革の四角いケースがむちりとした脚周りに革紐でくくりつけられて確かにあった。内腿うちももにそんなの着けてて邪魔じゃないのか? とか、さっきの戦闘の時あったっけか? みたいな疑問は、当然のことながら些末事として脳内で処理されていった。でも結構しっかりとついてるな……どうやって外せばいいんだ? 無理やりだと綺麗な肌をそれこそ傷つけてしまいそうだ……


「ど、どうすりゃいいんだ……俺、実はこういうの初めてで……」


「あわてないで。んッ……もうちょっと下……そう、そこでいいよ……」


「こう……か? うっ……悪ぃ……痛く……ないか?」


「だい……じょうぶ……続けて?」


「だいぶ……(ケースの固定ロックが)緩んできたみたいだ……このまま(ロック解除)いくぜ?」


「……ふあッ!? 待って、(ケースのカドが)当たってるぅッ!! 当たってるからぁッ!!」


「もう少しでッ!! (ケースの金具が)もう少しなんだッ!! このまま……一気に……(治具を外す)ッ!!」


 ……そんなこんなで何とか、カードケースを無事に外す事が出来た。あああああーッ、と一際大きな声を上げて俺の腕の中でへたる紫女サ=エだったが、柔らかそうな草の上に横たえて俺は次の女の元へと向かう。


 なんか……いろいろダメなものを随時背負い込もうとしている気がする……「ケレン味」がなんか……ないがしろにされ気味になっているというか……うううううぅん、大丈夫かなあ……みたいな諦観猫声が背後からずっと響いてきているが、気にせず俺は淡々と残るふたりの作業をこなしていくに留める。


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