#001:唐突だな!(あるいは、これが噂の異世界ですかい?)
……いやな夢を見ちまった。
普段は10トンの大型を駆って、都心と主に西側をルートに中央道や東名を月20以上往復する長距離5年目の俺だが、なぜかそん時は、生身のまま、灼けるようなと表現されるにふさわしいぎんぎらな真夏のアスファルトの上に間抜けにも、ととっと歩み出ていたわけで。
あ、やばいな、と思う間も無かった。左手方向から突っ込んで来たのは、いつの型かもわからねえ黒のスプリンターシエロだった。運転席でひきつった顔を固めたままスピードを緩めることもしねえ皺くちゃの驚愕顔と目と目が確かに合った、気がした。
次の瞬間、時代を先取りしすぎた5ドアハッチバックの洗練されたデザインを、その
「おおおおおおッ!?」
「……」
アルコールというかアルデヒドを多分に含んだかのように思える不快な息を吐き出す。高アル500ml2本飲みは、やっぱ次の日休みだろうとやったらダメだよな……仮にも運転を生業とする者としてはな……みたいな、俺にしては珍しく殊勝な感じで目覚めて、さて今日はなにすんべい……と、とりあえず枕元に置いたスマホを手探ってみるものの。
「……」
手に触れるのは、冷たく細かい、それでいて密に俺の皮膚を意思を持ってんじゃねえかくらいに執拗に包んで来る、泡のような質感のものだけだった。その触り慣れなさに一気に眠気を飛ばされた俺は、さらに身の回りに漂う異質な空気を五感で受け取ると、左方向に首を捻っていたにも関わらず、さらにの左を見ようとして首のどっかを起きているのに寝違えたように痛めてしまうのだが。それほどまでの現実感の無い光景が広がっていたわけで。
……見渡す限り、ピンク色の雲海だった。360°全方位。あれ、これ二段階で夢みてたりすんのかな俺……とか、この時はまだそんな呑気な事を考えており、いや、逆にこのまま二度寝すれば綺麗さっぱり元に戻るんじゃね? みたいな、根拠の欠片も感じさせないことも被せるように考え重ねたりして、要は自分でも咀嚼嚥下できないほどに、静かながらも相当パニクってた。
そんな中、
「……ファファファファファ!! 目覚めたかッ、勇者よ!!」
のっけからの高高度テンションを帯びに帯びた妙齢の女性の声が、そのだだっ広い空間……というか「世界」的なものに響き渡るのだ↑が→。
いやこれマジで精神とかその辺が知らぬ間にごっつりとやられてたのかも知れねえ……医者だ今日は朝一でまず医者だ、とかこの期に及んでもそんな日常におもねったことを思いつつ、いや、でも財布とかおくすり手帳とか入れてある鞄とか、そもそも見当たらねえな……みたいな、現実感にすがり付きたいがためだけの詮無い思考を、遠慮も忖度も無く錆びついた鉈で断ち切るかのように。
「お主こそ、選ばれし勇者ッ!! この世界……『ロガクト=テバ=ルストエル=ウル=バルスカ』を救えるのは、お主しかおらんのじゃッ!!」
件の自信に満ち溢れた者がためらいも衒いもなく言ってのける口調で、そう畳みかけてきやがった。いやいやいや……
「……」
寝起きゆえだけでは無かろうと思われる、表情筋の5%も使ってなさそうな真顔のまま、俺はその声の主を、不意の衝撃に耐えるためにいったん右人差し指で心臓あたりをトトトトトと刺激してから向き直る。果たして。
「かくゆー私はぁ、全能神、『
いきなり大トロから供してくるような、江戸前の流儀を知らなそうな脂ぎったコテコテの自己紹介に、叩いておいて良かった左胸が疼痛のような熱みも伴った感覚を訴えてくるのだ↑が→。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます