第86話 不穏な空気

 

 春に行われる人間国研修を心待ちにする。


 魔法王国の情報屋、その他の書物を漁ってもまるで正体のつめなかった「死の悪魔」に関する文献。


 悪魔関連の本をさらって見ても、どうにもそこだけ抜け落ちたように、まったく情報の得られなかった死の悪魔へのゆいいつの手がかりだ。


 師匠に託された思いを完遂するためには、まず師匠と死の悪魔の関係をさらう必要がおる。

 哀れな老人を操り友を、そして師を殺された。


 突然の再開と別れから、もう1年と半年経つ。


 ようやく掴んだ尻尾だ。

 絶対にはなしてなるものか。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



「ゴルゴンドーラ」

「なんだ」


 前を仲良く歩くぺろぺろペルシャと、くんかくんかレティスを尊みを感じながら、ぶっきらぼうな青年のに返答する。


「昨日の件、どう思う?」

「昨日の……あぁ、あれか」


 昨日の記憶をたぐり、朝刊で知った物騒な事件のことを言っているのだと推測した。


 昨晩、レトレシア魔術大学からの下校中にひとりの生徒が襲われたらしい。もちろん貴族だ、それも有力な。

 従者もろとも、気絶させられ、誘拐するでもなく道端に放置。

 ここだけならタダの珍事件だが、これだけだは終わらない。


「毒、らしいな」


「毒だ。遅効性の毒らしく、どの程度の脅威なのかわからないらしい。ここからは大貴族としての情報網を使った情報になるが、

 どうにも被害にあった貴族たちは、医者と錬金術師を雇いいれ治療しているらしいが、うまく行っていないみたいだ。未知の毒の可能性もある」


「そうか、厄介だな。だが、まだ1日だ。結果をあせるものじゃない」


 俺の言葉に顎に白手袋はめた手をそえるダビデ。

 首をかしげ「まぁ、そうだな。ただの偶然かもしれない」と独白気味にひとり呟いた。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー1週間後


 年末ムードになり、秋から冬へと変わってきたこの頃。人間国研修のための試験と選抜が近づいていくに連れて、仲良しムードだった貴族の派閥間の摩擦が表面化しだしてきた。


 人間国の有力者たちと繋がりを作る機会。


 大学に通う子どもの親たちは、我が子を送りこむために必死なのだろう。


 と、そんな事を朝霜降りる冷たい空気を吸いながら思っていると、黒髪メイドのほかに歩調を合わせてくる茶色い執事がやってきた。


 前いくペルシャの背中にいやらしい視線を固定しつつ、犯罪者予備軍は口を開く。


「どう思う?」


 ただひとことそれだけ。

 だが、1週間前と違い、俺にはその言葉の意味がわかるようになっていた。


 そりゃな。

 どうもこうもこれはーー。


「誰かやってんだろ、

「……やはりそうか」


 ダビデと俺は顔を見合わせた。

 覗き込んでくる黄金の瞳は、親しみのそれとはもはやまったく別の色のように俺には見えた。

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