第84話 オオカミ庭園での一幕
ヨルプウィスト人間国へよ研修旅行。
ダビデから情報の概要を掴んだあと、レトレシア魔術大学の教師たちに尋ねたところ、本当にあるらしいと裏がとれた。
「まさか本当のことを言っていたとは……」
「失礼なやつめ、疑っていたのか」
「いや、だってダビデじゃん」
レトレシア魔術大学中庭、通称「オオカミ庭園」と呼ばれるオシャレな庭で、ダビデといっしょにベンチに腰掛ける。
出来れば座りたくもないが、今回ばかりは仕方ない。
「お前、ペルシャちゃ……あの高飛車な女児のもとを離れてよかったのか」
「今は授業中だ。どちらにせよ教室には入れない。すべての貴族が従者を連れこんでいたら、邪魔で邪魔で仕方がないからな」
あぁ、なるほど。俺は学生としてはいったから、いまいちそこらへんの事情を知らなかったな。
思えば、半年前から学校に同行するようになったアヤノも、一度も授業中に教室にはいって来たことがなかった。
「今回の研修はまだ発表されていないが、もう事情を知っている者は根回しをはじめている。
なにせ来年の春、ヨルプウィスト人間国に新しく開校する『ゴルディモア国立魔法大学』の入学式、人間国の王族や貴族たちとコネクションを作る良い機会だからな」
「でも、どうしてこんないきなりなんだ……? それに、俺のところの主人の母親が好調なんだぞ。娘に教えてくれたっていいだろう」
「毎年のようにある事ではない。今回が初めてだ。もしかしたら、戦争によって対帝国意識の強くなった
「なるほど、確かにありえるか」
まぁ、なんだっていい。
どちらにせよ、レティスの側を離れるわけにいかない俺はかの人間国へ至る道に悩んでいたのだから。
レティスと一緒に行けるのなら、それが一番精神衛生上よろしいだろうし、手間もかからずにむかえるだろう。
あぁ、師匠が転移先を残してそうだが……探すのは困難だろう。今となっては、帝国の師匠の工房にあった魔法陣はみつかってしまい破壊されてしまった。
やれやれ、バルマスト帝に転移魔法の存在を教えてしまったのはうかつだった。
ーーゴーン、ゴーン
鐘の音が大学全体へお昼時を知らせる。
ダビデと俺はスッとベンチから立ち上がり、皮肉にも全く同じ所作で身だしなみを確認してしまう。
やや気まづい空気が流れるが、ただ口論になるだけなので、咳払いだけして、お互いに触れないようにした。
「ではな。ペルシャお嬢様が呼んでいる。ついてくるなよ、ゴルゴンドーラ」
「お前こそ、ずいぶん俺のことが好きらしいが、気持ちには答えられないから諦めろよ」
悪態を交換しつつ、俺たちはそれぞれの主人が待つ同じ教室へとむかった。
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