第74話 軍神召喚

 


 莫大な資源と、数千人規模の魔術師によって建造されたクルクマ砦は、その建物すべてを魔法陣につつまれている。


 すべては魔道具『連結式』によって統合される、最高の盾、大規模魔法結界の展開のためだ。


 だが、相手が一撃で結界全体に波及するほどの魔力攻撃を行なえるのなら、その最高の盾もいつまで持つかはわからない。


 確実に言えるのはいつかは決壊することだ。


「グリム! この要塞に設置された魔法陣を使いたい!」


 遠くで唖然とする金髪の貴族へと声をかける。


「ぁぁ、また、いや、前より威力が上がっている……ここも、もうダメなんだ……っ! この国は終わってしまう……」


「落ち着いてください。まだ何も終わってない、というか始まってすらいないです!」


「ゴルゴンドーラ……ッ! 私たちはどうすればいいんだ……ッ!」


 グリムは将軍としてのプライドを背負いながらも、涙をながして聞いてくる。


 そっと彼の肩に手をおいて、俺は砦中央に設置された魔法陣を統合するシステムの集約する地点を指差した。


「魔法結界を解除してください」


「……っ、正気か!? そんなことしたら、次こそあの超火力に砦を砕かれて本当におしまいだぞッ!?」


「どちらにせよ、受け身にまわっていてはジリ貧です。この俺を信じてください、必ずなんとかしますから」


「しかし……っ!」


 グリムはちらりと北方の地平線をみて目をつむる。

 数巡の葛藤の後、彼はパッと目を見開くと、駆け足で砦の中央へより、さきほど起動したばかりの『連結式』から核となる魔法結界の展開キーを抜きとった。


 肌を痺れるような魔力の紫色の粒子を散らしながら、連結式と核たる金属板は乖離した。


 すると、たちまち魔法結界が上方から悲鳴をあげて崩れはじめた。

 多重の魔法陣を連結稼働させてようやく形を成していた魔力たちが、役目を終えて自然へと還っていく。


 その様は、さながら終戦の戦場にはかなく舞う火の粉ようでいて、わずかに点滅し、魔法の起動に答える姿は、未だ終わらぬ次なる反撃の予感を感じさせる呼び水のようでもある。


 いや、まぁ、現に俺がそうさせるのだがーー。


「……ッ! これはなんだ!」

「あぁ! グリム将軍、うしろを!」


 点滅する魔力よ粒子に目を取られるなか、ひとりの兵士がクルクマ砦の帝国軍とは反対側の光源に気がついた。


 魔法陣もないのに、やけに明るい見下ろす地面から岩がせり上がるように生えてきている光景に、砦上の多くの兵士、そして謎の光から逃げまどう階下の兵士たちは皆が驚愕を顔に貼り付けている。


「上手くいきました。かつて師匠が開発に挑んだ魔造兵器の召喚術……必要とするコストが膨大すぎて現実的ではありませんでしたが、戦場ならばそれも可能だと、いま証明された。これが俺と師匠の合作です」


 俺は手にもつ核魔法陣の描かれたページを破りとり、光り輝くその魔法陣を天高くかかげる。


 眼下から姿をあらわすのは、民家も格納庫も、ギルド支部を再利用して設置された本部をも巻きこんで、

 その五体を真っ赤な魔力の粒子とともに形成していく究極の破壊軍神「ゲイシャポック」だ。


 あり得ない量の魔力資源を蒸発させ、砦を構成する魔力すら溶かしながら、巨大軍神はクルクマ砦の最上階に手をかけた。


「ご、ゴルゴンドーラぁあ!?」


「まぁ、そこで見ててください。あぁ……耳を塞いでいたほうがいいかもしれませんよ」


 俺はそう言って、天に掲げていたノートのページ握る手を勢いよく北方の地平線へ振りおろした。

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