第73話 被害者視点
「ん、なにか帝国の奴らとまりましたね」
兵士の何気ない一言が、俺に彼女のこと意識させた。
「あぁ、この距離は……またあの攻撃がくるぞぉぉぉおお!!」
「魔法結界を全力で維持するんダァァァア!」
男たちの悲鳴のごとき叫びが俺に彼女の攻撃を確信させた。
この者たちはすでに2度、あの勇者ルーツの伝説の攻撃『
「総員! ただちに攻撃に備えろぉおおお! 一度魔法結界が途切れたら、再展開まで砦が裸になる! 絶対に破らせるなよッ!」
グリムはカッと目を見開き、慌ただしくなる現場を制圧、統率を取り戻してよくとおる声を張りあげた。
兵士たちが右へ左へ走りまわる。
魔力鉱石を精製して作られた、結界の耐久性に直結する、魔力結晶のてんこ盛りに積まれた箱をかついで防御体制にはいっているのだ。
「おい、バルマスト帝、あんた昼はトールメイズ砦の修繕させるとか指示してなかったか?」
「判断は大将軍に任せているのだ。あの軍は我のものであって、我の意思から完全に独立している。
戦術の知識は修めているが、我に現場の経験値はない。杖は杖屋というやつである」
「チッ……あんたに死なれたら最悪だ。味方撃ちで皇帝殺すなんてやめてくれよな」
俺はバルマスト帝を小脇にかかえ、遠くで収束する魔力の波動に肝を冷やしながら砦をくだった。
俺は当代のルーツ勇者ーーラナ・ルーツの本気を見たことがない。
聞く限りトールメイズ砦を落とすくらいだから、たぶん相当な火力だとは予想しているが、それでも現物を見てみない限りはなんとも言えない。
立場上、彼女には何度かあったことがあるが、あの時の雰囲気からすると、やる時が来たら徹底的にやるタイプの人間だ。
「バルマスト帝、勇者に戦争参加させたことを後悔するなよ」
「はっ、なんだ、あのゴルゴンドーラが恐れているのか。まぁ当然だろうな。我が勇者は最強の存在なのだから」
「バルマスト帝、あんたの勇者じゃない。そこを間違えるなよ」
俺は砦の中腹、おそらく結界が崩壊しても安全だと思われる端のほうへと皇帝を抱えたまま移動。
その時、ついに空間がねじ曲がるほどの、魔力のうねりが放たれた。
「ふせろっ!」
「ぐぁ!?」
バルマスト帝の頭をおさえながら、俺はとっさに砦の床にダイブして頭をおさえた。
その一瞬ーー音が消えた。
砦のなかを無限にも思える光量が包みこみ、一拍の意識を飛び越えて、巨大な振動が全身を襲ってきた。
「ぐわぁあああ!」
「おわっちょっ!?」
あまりの衝撃に床に伏せたにも関わらず、天井付近まで飛びあがってしまい、頭をぶつけてバルマスト帝をどこかへ放り投げてしまう。
やがて目が焼けるような光のなかで、揺れはおさまっていった。
「いてて、大丈夫、か、バルマスト帝……っ!」
「ぐぬぬぅ……肩、が、ぐっ……勇者め、我がいるのに、なんて事をしてくれたのか……ッ!」
愚痴をもらす声に安心して、俺はのぞき隙間から北側、帝国軍がかまえる地点へと視線をむける。
すると、目の前いっぱいに青い波動が広がっているのがまず見えた。
それが魔法結界のきしんでいる様子だとわかると、俺はあまりの強大な一撃に舌を巻いてしまった。
まさか、これほどの威力だとは……どうやら、これ以上受け身に回っている暇はないらしい。
俺は決心した。
「バルマスト帝、残念ですが……
俺はそれだけを告げて、ほうける皇帝をおいて、砦の中央、最上階へと向かった。
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