第68話 戦場



 あたりを囂々と燃え盛る炎が彩る景色。

 俺は気絶から目覚めた人質とともに、そんな雑な火葬場に背を向ける。


「よかったのか、ゴルゴンドーラ。『四属しぞく魔法詠唱者まほうえいしょうしゃ』ドトール・エフェクト、おまえの師だったのだろう」


 背後の火畑をかえり見ながら、バルマスト帝はらしくもない塩らしい声で言った。


「魔術師は知識の探究者でありながら、闘いに身を置く闘争者でもある。

 別れはいつ訪れるかわからない。15歳の頃、変身魔術に失敗して師匠の飼い猫を殺してしまったことがあるんだ。

 師匠はあの時、泣かなかった。あらゆる生命の鼓動の裏には、常に死の足音が重なっていることを俺は知っている」


「だから、もう割り切ったということか。魔術師とはやはり人間よりはるかに冷酷な生物なのだな」


「……そういうものだ」


 手に持つ曲がった木の大杖に視線を向ける。


 師匠の友達と、死の悪魔。


 俺が師匠から託されたものは小さくない。


 彼のやり残した仕事を必ず完遂しなければなるまい。


 まぁ、それよりもまずは自分の責任からだが。


「今は目の前に火急の問題があるだろう。バルマスト帝、あんたにはこの戦争を何とかしてもらわないと困る」


「チッ、忘れていなかったか」


 バルマスト帝はこめかみを抑えて渋い顔をした。


 まさか俺が忘れてると思ったのだろうか。


 俺はつくづく評価が低くなる体質なのかもしれないな。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー30分後



「おいッ! こっちにもっと青ポーションの箱をも回せ! 積荷が足りてねぇぞ!」

「武器が足りてない! 設置魔法陣のために使う魔力触媒はまだ届かないのか!」

「魔力砲到着しました!」

「よぉし! 手の空いてる9班! おまえらさっさと向こうに並べてこい!」


 皆が怒髪天をついてるのかと思うどの怒鳴り声が右へ、左へと縦横無尽にぬけていく。


 筋骨隆々のマッチョたちを筆頭に、炭鉱の街クルクマの北側へとどんどん荷車が向かっていき、

 逆に王都方面の南側へは空の荷車か、怪我人を乗せた荷車が向かっていく。


 遠くへと目をやれば、北側には壁が築かれはじめており、大量の魔導砲と魔法陣が設置されており、防衛を固めているのが分かった、


 近くを通りかかったマッチョを捕まえて話を聞いてみる。


「おい、これはいったい何をしているんだ?」

「あ? なに訳のわからねぇこと言ってんだっ! 帝国のクソ野郎どもの侵略に備えてんだろうがっ!」

「いや、それはわかるんだが、物資も人員も足らないのならどうして最北のトライマストで防衛をしないんだ。

 トールメイズ砦が落とされたあとの防衛ラインは、トライマストに設置されていたはずだ」


 俺が不思議そうに尋ねると、男はぽかんと惚けた顔をした。

 しかし、すぐに怒りの形相にその表情を歪ませると、怒鳴り声をあげて口を開いた。


「馬鹿か、てめぇは! もうとっくにトライマストも陥ちただろうがよ……ッ!」


 どうやらトライマストの防衛線は陥落したらしい……じゃねぇよ。早すぎんだろうが。

 

 どうなってんだよ。


「ふむ、いい気味だ」


 得意げにつぶやくバルマスト帝と顔を合わせると、彼は凶悪な笑顔にその頬をほころばせた。

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