第44話 守るべきポイント

 

 口から出る息は白く、手はかじかむ。


 だんだんと本格的な寒さを感じさせてくるようになった灰色の空のした、

 特別に解放された王城の正門から、その広い庭にぞくぞくと徴兵された男たちと、志願してきた勇猛な若者たちがはいってくる。


 俺たち魔術教官として呼ばれた現職の魔術大学教師、王都の私塾、

 あるいは地方都市から集められた腕の覚えのある魔術師、魔法機関に務めている役人、

 または俺のように務めていた役人などなど……おおくの魔術師たちが、設営された壇上のうえで訓練兵たちをむかえる。


「すごい数ですね。このひとたち全員を、これから戦争で戦えるようになる魔術師にするんですかね? ちょっと、僕、自信なくなってきましたよ」


 となりでローブの前を締めながら、パティオが心配そうにつぶやいた。


 見たところ、現在だげで入ってきた訓練兵たちは5000人はいるだろうか、たしかに魔法教育をほどこすには規格外の多さだ。


「まぁでも、戦争に限っての魔術の運用。それにおそらく帝国の軍隊を迎え撃つ場所は、

 おおよそ見当がついているはずですから、必要最低限の攻撃魔術だけを使えるようになれば、万々歳なんじゃないですかね」


「あぁ、なるほど。なんだか自信でて来ましたよ、僕」


 パティオは快活に笑い、ふたたび正門へ視線を向けた。


 しばらくして、訓練兵たちが庭に入りおえると、騎士団長アルガスの馬鹿でかい声による演説がはじまった。


 内容は激励からはじまり、訓練兵たちを近距離拠点防衛専門の槍兵にするか、

 中遠距離迎撃専門の魔術師のどちらになるかという、適正による兵の振り分けの方法、部隊の配属など多岐にわたった。


 ローレシア魔法王国は幸いにもゲオニエス帝国との国境を大河で隔てているため、

 防衛ポイントはわかりやすく、守りに関してはいくらかの利がこちらにある。


 ただ、もうすでに知られているように100年前にも突破され、その手法は確立されてしまっているため、そこまで信用できる自然要塞ではないことも事実。


「帝国との国境となってるトールメイズ河と、そこに建てられたトールメイズ砦が僕たちのかなめですか」


 騎士団長の説明を横耳に、パティオはあくびをしながら話しかけてくる。


「えぇ、そうですね。河の流れは激しいですが、100年前の帝国の魔法でも、

 河ごと凍らせて渡ることは可能でしたから、まずはいかに河を凍らせないかが鍵でしょうでね」


「その前にトールメイズ大橋を落とすのでは?」


「ああ、たしかに。そっちが先ですか……いや、はじめから落とすことはないかもしれないです」


 橋があればそこを渡りたくなるのは、人情というものだ。

 まっ、どちらにせよ戦争が始まれば遅かれ早かれ、破壊して落とすことになるだろうが。


「騎士団長の演説が終わりましたね。さっ、ゴルゴンドーラ先生、僕たちの仕事の時間が来ましたよ」


 張りきるパティオに続き、俺はのそのそ動く訓練兵たちの集団を先導して歩きはじめた。

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