第37話 盗まれた魔導書
魔術大学からパールトン邸へ帰宅した。
制服の黒ローブを壁にかけ、帝国魔法省の長老たちから奪った機密公文書を、貸し出されている私室の机のうえに広げる。
ーーコンコンッ
「ん、どうぞ」
ノックの音にふりかえり、入室の許可をだす。
すぐに聞き覚えのある声で返事が返ってくると、ドアは開から、お盆をもった黒髪のメイドが部屋へとはいってきた。
「本日もお疲れ様でした。サラモンド先生」
「いえ、学校にいかせてもらえている身ですので、お気遣いなく。紅茶ありがとうございます」
机に置かれたティーカップを口元へ運ぶ。
「おや、サラモンド先生、なにしているのですか?」
「ああ、これですか。あんまり大声じゃ言えないんですけど……ちょっと帝国の機密文書を拝見してたんです」
「え、帝国ってゲオニエス帝国ですか? それってサラモンド先生が、いぜん務めていた魔法省がある場所じゃないですか」
「ええ、ちょうどついさっき、まえの職場の人間と会いまして、なんでローレシアを訪れたのか尋ねたのに、教えてくれないんで、自分で調べることにしたんですよ」
アヤノは「それ平気なんですか……?」と、心配した顔でいいつつも、機密だって言ってる公文書をのぞき込んでくる。
秘密の香りがすると、自ら首を突っ込みたくなるのは使用人のさがなのか。
「なんて書いてあるんです?」
「うーむ、見たところ……被害届け、ですかね。あるいは文句を言う非難文書……『うちの魔導書がなくなった! どうしてくれるんだ、ローレシア魔法王国!』という趣旨のものですね」
俺は頬杖をつき、目頭をマッサージ。
「あはは、面白い非難をされるんですね、帝国の魔法省の方たちは。ローレシア魔法王国が、帝国の魔導書を盗んだっていいたいのでしょうかね」
「……えぇ、多分そうですよ。彼らは魔術の発展に貪欲だ。そしてその知識と研究成果の保存と隠匿にもね。他国に流出するようなことは、彼らがもっとも嫌いとするものの一つです」
アヤノはため息をつき、最後に面倒ごとに巻き込まれないよう注意を促してくると、おぼんを抱えて部屋を退出していった。
普通に考えれば魔法王国が、帝国ごときの魔法技術を盗むなんて百害あって一理なしだ。
独特の発展を遂げた知識や、魔法体系はたしかに魅力的だが、ローレシアの教育水準、
そしてその研究者たちの意欲と成果をみれば、魔法界の権威はいまだにこちらに100%傾いているといえる。
もし仮にゲオニエスから魔導書なんて盗みだす奴がいたら、それはきっと変わり者か、気まぐれで行動しちゃうやつだろう。
イスカら腰をあげて、書棚に歩みよる。
「そう、俺のような気まぐれなやつだけだよな……」
本棚にバッチリおさまってる魔導書を手に取って、俺は深いため息をついた。
「チッ……持ってくるんじゃなかった」
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