第31話 仲間発見

 

 ーーカチッ


 時刻は11時59分。


「面白い授業でしたね、レティスお嬢様」

「サリィはぜんぶ知ってたでしょ! なによ、あの『すべてレティスお嬢様のおかげです』って! ほんとうに信じられないわー」

「でも、レティスお嬢様も満更でもなかったような……『えっへん、レティスはすごーー」

「マネしなくていいわよっ!」


 小さくて可愛い手にぺちぺちはたかれる。なんていう幸せだ。無限のおかわりが欲しくなる。


「サリィ、ここが食堂よ」

「わきあいあいと探究の旅とともにする友たちが楽しむ……素敵な場所ですね」


 自慢げなレティスにつづいて、複数あるメニューから好きな物を選び、そこらへんの冒険者よりよっぽど強そうなシェフから料理を受け取る。


 ゲオニエスで数年前に流行った料理が、ローレシアの庶民層で、いますごくキテるらしい。

 そんかパンのうえに蒸したトマトを乗せ、数種チーズと燻製ベーコンを乗せ、石窯のオーブンで焼いたものが、貴族だらけの魔術大学にもメニューとして食堂に参入していた。


「パールトン邸の一流料理人たちの料理も最高ですけど、こういう庶民的なのもいいですね」

「んーっ! これ美味しいわー!」


 伸びるとろけたチーズと、頬を染め幸せにほっぺをゆるませるレティスを見て楽しむ。


 絶対に柔らかいほっぺむにむにしたい、したい、したい……むにむに、したい、なぁ……。


「はぁ……」

「あら、おおきなため息ですわ。残念な主人の世話に疲れてしまったのでしょうか?」


 決しておいたの許されない、自らの境遇を呪ってるところへ、高飛車なこどもの声が聞こえてくる。


 顔をあげれば艶やかな金髪が目にはいって来た。

 自信たっぷりの透きとおる碧眼のうしろには、茶色い執事服を着たあの青年、タビデがひかている。


「い、いやな子だ! サリィ、あっちいこう……あむっ!」


 トマトチーズぱんをくわえて、レティスは俺の袖を両手で引っ張ってくる。


「待ちなさい、このわたくしが話しかけてるのに勝手に立ち去ることなどできなくってよ!」


 俺のぎゃく袖を引っ張って、レティスの逃亡を阻止するペルシャ・バリストン。

 なぜか執事のダビデにすごく睨まれる。


「わたしのサリィを離して、ペルシャちゃん! レティスはあっちに行きたい気分なの!」

「嘘をいうんじゃありませんわ! わたくしの顔見てから『いやな子だ……』って言ったの聞こえてるんですのよ!」


 右へ、左へ、少女たちの騒ぐ声とともに揺られる。


 小さい女の子に取り合われるなんて、ただの天国なわけだが、今の俺はレティスの家庭教師だ。


 鉄の意思を持って、ペルシャのうでを振りはらう。


「きゃっ!」

「ペルシャお嬢様ァ!」

「っ、」


 トチ狂ったような声をあげ、冷静沈着クールガイを気取っていたダビデが、ペルシャを受けとめる。


 あまりの様子の変化に驚くレティス。

 

 俺もやや驚いたが、タビデがペルシャを受けとめる優しさと下心をはらんだ手つき、

 そして隙あらば小さい体をなめまわすような、その視線の動きをみて、納得してしまっていた。


「ダビデ、お前、同業者ロリコン……だな」


 迫真の顔、俺の声にかたまる二枚目の表情。


「……なにを言っているのか、分からないな」


 澄ました顔で、ペルシャを起こすと襟をただし、再びクールガイを気取りはじめた。


「わたくしを押し倒すなんて許さないわっ! レティス、この罰は主人であるあなたに、受けていただきますわ。

 放課後、決闘場で待っていますわ。わたくしの恐ろしさを思い出させてあげますわ!」


「ちょ、ちょっと! ペルシャちゃん待ってよ! そんな、いきなり決闘だなんてひどいよ!」

「ペルシャちゃんだなんて、気安く呼ばないでくださいます? パールトンさん。わたくしをそんな呼び方できるのはわたくしより強い者だけですわ」


 強気のペルシャの声に負け、レティスが押し黙ると、金髪碧眼の少女は執事をつれて、とっととさっていってしまった。

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