第5話 パールトン邸

 

 レティスちゃんは、もうすぐそこ。


 そう思うだけで胸が高鳴る。


 エゴスに連れられて、綺麗に舗装された通りをいくと、立派な屋敷が見えてきた。


「採用試験を通過したサラモンド殿には、先ほどお会いになられた、レティスお嬢様の家庭教師をしていただきます。

 もれもろの精査はあとでいたしますが、あなたは、プラクティカ様が直々に選ばれた方ですので、ご心配はなく。ほとんど確認作業のようなものです」


 エゴスは「ここです」と言い、おもむろに門をくぐってなかへ。


 遠くの噴水まで伸びる白亜の道をいく。


 両サイドにたち並ぶ不死鳥を模した彫刻たちと、庭師に整えられただろう植え込み。

 豪華絢爛ごうかけんらんとはまさに、この事か。


「どうして俺が選ばれたんでしょうか。ハッキリ言って、プラクティカさんがちょくせつ魔術の手ほどきをした方が、はるかに良いように思うのですが……」


 彼女は教育者であり、魔術師の最高峰でもあるだろうに。


「奥様は大変にお忙しいのです。それに、あなたを選ばれたのは奥様であって、奥様ではない。

 レティスお嬢様が『わがままを、きいてくれる、やさしいひと!』……とご所望なさったゆえに、奥様が最適な人材を選定したのですよ」


 エゴスのレティスを模した裏声に吐き気をもよおす。


 やれやれ、あのプラクティカは、この俺が重度の少女趣味だと知っているのか。


「あ、そういえば、プラクティカさんは、なぜあれほどに若いんですか? レティスちゃ、お嬢様は幼いとはいえ、さすがに若すぎるでしょう?」

「あれは秘術の一つです。奥様は不老不死の研究をなされている」

「圧倒的に禁忌をおかしてる感がいなめないですけど……まぁ、とりあえずわかりましたよ」


 あれれー、俺の就職先、ほんとうに平気かな?


 エゴスは快活に笑い飛ばしながら、たどり着いた玄関扉をあけて、俺をなかへ向かい入れてくれた。


 なかにプラクティカの姿はなかった。

 エゴスに案内されて、広大すぎるダンスホールに通されると、そこでメイドのスカートなかにもぐって遊んでるレティスちゃんを発見。


 鼻息あらく、紳士のまなざしで歩みよる。


「っ、そ、そんな、熱烈なまなざしで見つめられると、こ、困ります……ッ」


 黒髪黒目の美しいメイドは、視線を泳がせて手でくちもとを押さえた、ほざく。


 年齢は20歳ぜんご、清楚で身なりもよく、とても愛らしいがーー、


「お前じゃない、きょの年増としまっ!」

「きゃっ!?」


 メイドのロングスカートをめくり上げる。


「うわぁ! なんかきたー!?」

「レティスお嬢様、ただいま、あなたの従順なるシモベが参りました」


 ふわりと舞う布地のなかに、白いパンティ、柔らか青髪の幼女をみつけ、1ミリも迷わずに幼女ーーレティスお嬢様のまえにひざまづく。


 今朝は帝国の姫さまに会えず、ヨウジョニウムが足りなかったからな。危うく気が触れるところだった。


 ああ、なんたる幸福。


 若干、引かれて恐がられてる気がするけど、まぁ許容範囲だろう。


 セーフだ、セーフだよ。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 このあと、メイドに死ぬほどボコられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る