第2話 新しい主人

 

 青い光があけてくる。


 目にうつるのは黒い棺。

 テカリがなく、艶もなく、ただ塗り潰されたような長方体箱。


「っ、というか、ここはどこだ……」

「ふふん、サリィくんビックリしてるね?」


 黒棺から目を離し、腕にのこる感触をたどり見る。


 青髪の少女はニコニコと楽しそうに笑い、俺の手をひいて歩きだした。


 石造りの無骨な部屋をいく。


 壁、天井から錆びた鎖が垂れ下がり、木机のうえには羊皮紙と謎の金属具、ガラス瓶に、魔力触媒の鉱石、骨、魔導書などなど……。


「ここは魔術師の工房……君のかな?」

「ええ、ここは私の工房よ。サリィくんには特別だからね。普段だれにも見せないのんだからね」


 ご機嫌な少女に手をひかれ、無骨な魔術工房をでて、螺旋階段を登っていく。


 どうやら俺たちは地下室にいたらしい。


 階段をのぼりきり、扉をあけると、そこはなんの変哲もない民間の居間。


 人影はなく、また誰かが住んでいるような気配もしない。


「ここはただのカモフラージュだから、汚れてても気にしなさんな」

「ああ、それは構わないのだが……いろいろ説明をだなーー」

「しーっ! 黙ってついて来なさい。私は忙しいからとりあえず、あなたの主人にさっそく会ってもらいたいの」


 青髪の少女はそういって、俺の手をひいて、民家のそとへとでた。


「おおっ、しっかりした街並みだ。ここはゲオニエスか?」


 民家のそとは石畳の敷きつめられた大通りになっていた。


 大陸の首都でも、これだけ道の舗装された場所はめずらしい。


「いいえ、違うわ、ここは魔法王国ローレシアよ」


 少女が通りのずっとおくの立派な城を指差して、自慢げに鼻を鳴らした。


「魔法王国、ローレシア……」


「ええ、そう。あなたがこれから住み、魔法を勉強をする場所。ここではあなたのような魔術に関心を持つ人間をたくさん受けていれいるわ。非才な者なら、なおさらと言うものよ」


 俺は少女の言葉にふかく感銘を受けていた。

 ここは帝国ゲオニエスではない。


 魔術の本場にして、真なるの魔法先進国だ。


「あ、そうだ。あなたの名前はなんで言うんですか?」

「私の名前はプラクティカ・パールトン。ゲオニエスの無能たちが言ってたように校長よ。ほら、あれ、私の大学ね!」


 青髪の少女ーープラクティカは、さっきも指し示していた、とおりの先の城をふたたび指さした。


 なるほど、さっきから自慢していたのはそう言うことか。


「そして……あ、来た来た!」


 プラクティカはとおりの遠くをみて、ぴょんぴょん跳ねだした。


 むこうから「お嬢様ぁぁあーっ! お待ちくだぁぁぁあーいぃいっ!」と、渋い声がヒステリック気味に叫んでる気がするけど、多分気のせいだろう。


「お嬢様ぉぁあ! お嬢様ぁぁぁあー!」


 いや、気のせいじゃねぇわ。

 あの黒服来た白髪じいさんこっちに走ってきてるもん。


 やがて、黒服じじいに追われる形で、こちらへ走ってきていたおさない少女……いや、幼女はプラクティカの前まできて、腕をくんだ。


「おかあさんっ! またかってに消えて! どこいってたのっ!」

「ごめんねーレティスちゃん! ほら、抱っこにしてあげるー!」


 短い腕を組み、頬を膨らませて、全力の怒っているアピールする幼女ーーレティスちゃんをプラクティカが持ちあげた。


 間違いなく、ロリ。

 頬ずりして、くんかくんかしたい。


「サリィくん、紹介するわね。この子があなたの新しい主人、レティス・パールトン。今年11歳になる、私の娘よ」


 おいおい、ロリが主人だって?

 勘弁しろよ、なんだこの夢見たいな展開は。


「よろしくお願いします、レティスお嬢様」


 俺はキメ顔で握手をさしだす。

 そうして、レティスちゃんの手をふにふにしながら、絆を通わせることにした。

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