【完結】ロリコンなせいで追放された魔術師、可愛い愛弟子をとって隣国で自由気ままに成りあがるスローライフ！

第一章 追放の宮廷魔術師

第1話 もうお前は必要ない

　壁一面の棚。

　重厚な漆塗（うるしぬ）りの机。

　そこに座すは、帝国の魔法省トップ。

「このクズめ。自分ではなにも出来んくせに、偉そうにしおって……やはり、もうお前など必要ない」

　半年前に就任した、魔法省大臣エイブラムス・ベルニクスは、嫌悪感をかくさない声でそういった。

　しわがれた陰湿なる彼の声をかわきりに、エイブラムスの背後にたたずむ、たいした能力もない魔法省の老害たちが、口々に声をあげはじめた。

「姫様に手を出すなんて、とんでもない！　このロリコンめが！　なんたる畜生だ！　もう貴様の顔など見たくもないっ！」

「おまえなぞ、その役職にふさわしくない！　なぜ、こんな変態ロリコンが、たったの３人しかいない、

　宮廷魔術師の席にすわっていたのか、はなはだ不思議でならんッ！」

「ほんとです、ほんとです！　ロリコンなのに生意気だと思っていたんです！　あの者なぞには２度と、この偉大なるゲオニエス帝国の地を踏めないようにしてやりましょう！」

　ロリコン、ロリコン、ロリコン……なにが悪い？

　耳が痛いのはたしかだが、なにが悪い？

　それ言われた大したこと言い返せないけど、なにが悪い？

　もう手遅れかもしれない。

　だが、これだけは言わないと気がすまない。

　俺は手をあげて、発言を求める。

　エイブラムスは眉をピクリと動かし、「最後の言葉を聞かせてもらおう」と厳格な声音でいいはなった。

「栄えあるゲオニエス魔法省の長老のみなさま、どうかお考えなおしください。

　わたくしは、この国のために多くのものを、時間を、労力を捧げてきました。

　あやまって姫さまを抱っこしてしまったのは、失態であります。ただ、それは単なる抱っこに過ぎません。

　暴走した魔法陣と、崩れる修練室から、姫さまを救いだすため、いたしかたなかったーー」

「もういい、黙れ、ゴルゴンドーラ。ゲオニエス帝国は、お前のような変態で、無能な魔術師を必要としていない。ゆえに、言うことはもう何もありはしない、そうそうに立ち去るがいい」

　何を言おうと返ってくるのは、汚物をみるような目。計算をうまく遂行しきった者の目だ。

　完全にハメられた……クソどもめ。

　邪魔者を消す機会をのがさない老獪（ろうかい）どもが。

「さらばだ、サラモンド・ゴルゴンドーラ。これまで世話になったな」

　エイブラムスは、すべてを捧げた愛国者へ、敬意を１ミリも払わない態度のまま、机上の羊皮紙をまとめはじめる。

　その背後には、うすら笑う魔法省の重役たちの姿。

　この日、俺は、帝国の宮廷魔術師の職を失った。

　⌛︎⌛︎⌛︎

　魔法魔術の探究・普及。

　そして小さい子を愛でること。

　それは俺の全存在であり、生きる意義だ。

「やっぱり無駄だったか……はぁ、さようなら、クソったれなゲオニエス。本当にお世話になりました……っと」

　重厚な大臣室にかるく頭を下げて、中指をたてる。

　あれだけ尽くしたのに、ただの一度の不祥事……いや、不祥事と呼べるかもわからない、さじな案件で捨てられるなんてね。

「本当に、あのクソジジイどもめ……」

　ふところから懐中時計をとりだす。

　ーーカチッ

　時刻は９時１５分。

　さて、これからどうしたものか。

　手元にはいくらでも金はあるが……職がない。

　戦争でもしかけるか？

　いっそこの魔法省ごと焼き払ってやってもいい。

　もう失うものなど何もないのだからな。

「はぁ……ん」

「ねぇねぇ、こんにちは！　あなたがサラモンド・ゴルゴンドーラ、なのかな？」

　すぐ近くで聞こえる子どもの声。

「そうだが……君はだれだ？」

　廊下の壁に背をあずける少女へ向きなおる。

　蒼穹のごとき青髪が、肩口でみじかく切り揃えられた美しい容姿の女の子だ。

　細い顎、白い肌、柔らかそうなほっぺ、発育途中。

　１５、６歳……たぶん、俺よりずっと若いだろう。

　だが、やや守備範囲オーバーだな、うむ。

「あっ！　やっぱりそうなんだ！　よかった、実は私ね、サリィのことをスカウトしに来たの！　うちの子の家庭教師にぴったりかなって思ったのよ！　ほら、帝国クビになって困ってたのよね？」

　まて、なんだサリィって。

　それになんでクビになったこと知ってるんだ。

「やれやれ、あの厄介な若造がやっと消えてくれましたな！」

「いやはや、ゴルゴンドーラのやつめ、前大臣のお気に入りだったから、あの役職に座れたことを、おのれの実力だと勘違いしていたようでしたなっ！」

　大臣室からわらわらと出てくる老害ども。

「これでせいせいしたわい！　あの無能のゴルゴンドーラが、やっと消えてくれて……お、そこにいるのは元（・）宮（・）廷（・）魔（・）術（・）師（・）のサラモンド・ゴルゴンドーラじゃないか。まだいたのか」

　俺に気づき、媚び売りはシワの多い顔を凶悪にゆがめる。

「ん？　あ……あれ、ど、どうして貴方さまが……無能変態のゴルゴンドーラなぞと一緒に……？」

　俺へステキな笑顔をくれていた老害のひとりが、きゅうにたたずまいを正した。

　何事かと目を見張れば、すぐとなりの青髪の少女へ、魔法省の重役たちが次々とこびへつらいはじてるではないか。

「なんですか、これは？」

　率直な疑問。

　なにしてるんだい、このジジイども。

　老け顔に冷や汗をうかべる男が、目を見開き、俺の肩をぐっと押しさげてきた。

「ッ、ゴルゴンドーラ、貴様なにをしている！　はやく腰をおらんか！　

　このかたはローレシア魔法王国の超名門魔法学校、レトレシア魔術大学の校長だ！　魔法界の頂点に座するおかただと言ってるんだッ！」

「紹介ありがとね。それにしても、ちょうどいいところに魔法省のおじいさん達が来たわね」

　少女はそう言うと、俺の腕をひっぱり、凶悪な笑みをうかべて、冷たいまなざしを重役たちへむけた。

「それじゃ、サリィはもらっていくから。ほら、サリィ、あなたは、こんなところで腐ってる場合じゃないのよ」

　ぐいぐい腕を引っ張られて、青髪の少女は廊下を歩いていく。

　目を見張り「なぜ、ゴルゴンドーラなどが……ッ」と、歯軋りする重役たち。

　血眼で睨まれるのはなかなかに爽快な気分だ。

「はは、それでは、お世話になりました、ゲオニエスのクソジジイさんたち！　またいつかお会いしましょうね！」

　老害たちの怒りは沸点に達しているようだったが、それでもとなりの少女のおかげか、杖をぬいてくるような事はなかった。

「はぁ、無能で、面倒なやつらな。サリィ、跳ぶわよ」

「とぶ、とは……？」

「あなたの新しい職場へ、ね」

「いや、行き先じゃなくてーー」

　俺の視界は、その言葉を最後に、煌めく寒色につつまれていってしまった。

　この日から俺の人生は大きく変わることになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『面白いかも』『続きが気になる』と思われたら、ぜひポチッと下記のボタンを押してくれると嬉しいです！

毎日複数話投稿していくのでよろしくお願いいたしますっ！