第11話 バザー
文化祭2日目。一般公開初日である。
食べ物だけかとおもったら、
「まずは、バザーを見てから。」
と、正司に言われて俺たちは講堂へむかう。
早くに来ていた人達に混ざって中に入る。ムンっと熱気が。ただでさえ暑い中、人が多いんだから当たり前か。
俺は特に何か買おうとは思っていなかったので、ざっとみて、外で待つことにした。
正司は入口に用意してあった買い物カゴを借り、あれやこれや入れている。
ヒロミも、欲しい物があったみたいで、中にとどまった。
学校近くの神社境内から、ツクツクボウシの鳴き声がきこえてくる。家の近くはミンミン蝉ばっかりだけど木の種類がちがうのかなあ、とか思いながらぼーっとして、出口付近の人の波を見ていると、ちょっと不審な動きをする女の子が見えた。
出口から真っ直ぐ奥にむかってテーブルが3つ繋げてあって、6人の生徒が会計に大忙しに当たっている。
お客は何かめぼしい物はないか、あっちこっち見て回るのに忙しい。
そんな中、皆に背を向け出口に近い壁際にしゃがんでいるその子の、動きと目の配り方が…。
ああ、やっぱり。
がっかりしつつ、その子が出口から出てきた所をそっと呼び止めた。
「あの、ちょっといい ? 」
こっち、こっちと手招きして、人の波からはずれると、目線を合わせるために女の子の前にかがみこんだ。
「お金、もってないの ? 」
口を引きむすんで、だんまり。
「盗ったもの返してくれるかな ? お兄ちゃん、代わりに戻しておくよ。」
やさしく、やさしーく言ってみた。でも、やはりだんまり。
どう見ても小学生だからお母さんもどこかにいるのかなーっと目を上げて見ると、正司とヒロミが歩いて来るのがみえた。
「どしたん ? 」
大荷物を抱えて横に大きい熊のような体型の正司に怯える表情を見せる少女。
「あー、可愛い。パンダ柄のTシャツ着てる。」
と、ヒロミ。
「お母さんに、内緒にしてくれる ? 」
少女は、切羽詰まったようにヒロミに助けを求めた。
おお、地蔵パワーが効いてる。
そりゃあもちろん、せいぜい数百円の何かを盗ったことぐらいで母親にいいつけたりしませんよ。なんなら、物はあげたっていいよ。ただ、君が悪いことをした事が見過ごせないだけなんだから。と、言おうと思ったら。
「ででを助けたいの。これで、助けに行こうと思ったの。」
と、取り出したのは…彫刻刀セット ! しかも値段20円 !!
ヒロミは察したように彫刻刀を受け取り、
「お名前聞いてもいいかな ? 私はヒロミ。1人で来てるの ? 」
「ううん。お母さんと来ているの。でもお母さん人混み嫌いって。食堂でかき氷食べてるからねって。…お金、貰えないわけじゃないけど、何買ったか聞かれたら困るから…。」
ヒロミはそっと彫刻刀を俺に手渡し、
「私、この子に付き合うから、2人共、色々回ってきて。」
地蔵どころか菩薩の笑みで言い、頼もしさにほっとする俺。
「ヒロミちゃんは聞き上手だからだいじょーぶだわ。大志、これどしたらいい ? 」
と、大荷物を持ち上げてみせる正司にあきれて、
「じゃあ、俺のロッカーに突っ込んでおこう。」
と、案内することにした。
「大丈夫か ? 何かあったら、呼んで ? 」
と、ヒロミに言い、まずは普通に講堂にもどり、スタスタと出口付近まで進んで何気なーく物を戻してから正司と合流した。
ヒロミに厄介事を押し付けてしまった罪悪感があったが、俺ら2人は、たぶん役立たずだろうし…
「そっかー、お名前ナオちゃんかー。何年生 ? 」
「3年 ! 」
ヒロミと少女は手をつないで会話しながらゆっくり歩いていた。
そんな2人に、
「じゃあね、任せてヒロミちゃん。」
と、正司が声をかける。
『任せるよ』じゃあないのかと思いつつ、なごやかな2人をジャマしないようにその場を離れた。
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