第6話 明かない扉
昇降口……もとい、下駄箱置き場エリアから出たライト一同は左右を見渡した。右手はライトたちが来た方向。教室としてはLL教室とその準備室がある。
少し戻りつつ、LL室と書かれた教室のプレートを全員で見る。横で喜巳花がゆっくりと首をかしげていた。
「……LL室ってなんやったっけ?」
「……俺もよくはわかってねえな」
響輝も頭に軽く手を置きつつ答える。
「六年間でこの教室使った覚えもねぇよ……。覚えてないだけか……」
ライトもあごに手を当て思考するしぐさをして見せた。
LL室……ライトもその意味と教室の意図はよくわかっていない。もっとも、今この状況において必要な情報ではない。
まぁ、でもぶっきらぼうに答えてもあれだし、一応言っておく。
「東さんなら知っているかもしれませんね。あとで聞いてみたらどうです?」
「いや、べつに知りたくもねえよ」
……そんなあっさりぶつ切りにしなくてもいいのではないか……。こっちのはからいを軽いノリでドブに捨てやがって……。
たしかに必要ない情報だとは思ったけども……。
響輝はLL室のことなど、実際本当に興味などないらしく、さっさとひとり、この場を離れて今度は左のほうに向かって駆け足で向かっていく。
「それより、……ずっと気になってるのがあるんだよな!」
さっさと昇降口を通り抜けて、さらに向こうへ。そして、ある扉の前で立ち止まった。
遅れて喜巳花とライトがたどり着く。そこのドアはほかよりもちょっと良さげ……というか高級感があった。スライドドアではなく、押戸になっている。
ほかとは明らかに違う。
ドアの上にはほかの教室と同様にプレートが張ってあった。そこに示された名前は「校長室」。
「校長室って結構、憧れじゃねえか? 一度でいいから入って見たかったんだよな~。きっと大きくてふかふかな椅子があるんだぜ? 足机に乗っけてふんぞり返ってやるよ」
「そぉれは……いましかできないですね」
響輝が豪華な椅子に深々と座り、肘置きに手を当てる。さらに、机の上に足を放り投げている姿はいとも簡単に想像できる。
そして、その想像を現実のものにするなら、先生がいないいましかない。
「だろ? 全力で偉そうにしてやるぜ。遠慮なんぞしねえからな」
響輝は楽しそうな笑顔を見せながらドアノブに手を開けた。だが、その次の瞬間、響輝の表情は一気に曇った。
「……どしたん? なんや? ビビったん?」
喜巳花が響輝の顔をのぞきながら聞く。
「いや……ビビッてはねぇよ……。けど……」
ドアノブからガチャガチャと音が出始める。それは響輝が力を入れているためなのは間違いないが、ドアは一向に動く気配がない。
「開かねえんだよ……。鍵がかかってる。なんでだよ……」
さらにドアに力を入れる響輝だったが、校長室のドアが開くことはない。
そんな響輝の横から喜巳花は妙にニヤニヤしながら壁にもたれかけた。
「そりゃぁ……響輝みたいな不届きものがいるかもしれんからとちゃう? そういうやからを入れへんために締められてるんやろねぇ」
なんて言いつつ、少し後ろを向いてつぶやく。
「……あぁ……うちも偉そうにしてみたかったなぁ」
「お前も不届きものじゃねえか」
響輝もバッチリこの独り言は聞こえていたらしい。
響輝はドアノブから手を離し喜巳花の顔のほうを見た。ドアから少し下がり喜巳花の場所を譲るようなしぐさを見せる。
「ほら。お前の持ちネタ、ぶち込むチャンス到来だ」
「いや、持ちネタやないよ……ったく……」
グチグチと口を動かしつつ、さりげなく扉の前へ。
「せいや!」
ガンッ!!
やるんかい!
「……いっつ……いっつ!! ……あぁ……いったぁ」
オチも一緒かい!
しかも、結構全力で殴っているよ。
「となりは保健室か……。いざって時は役に立ちそうな場所だよな……。ここは確認しておくか」
一方、響輝は振っておいたくせに、当てたこぶしに息を吹きかける喜巳花をよそにして保健室へと入っていく。
が、次の瞬間には、慌てて保健室を出ていく響輝の姿と、それを追いかけて駆け抜けていく一体の化け物があった。
「あっ、中にいたんやね」
「……高森さん、反応薄すぎません?」
「ライトもやん」
しばらくして銃声が聞こえ、その後やつれた顔で戻ってくる響輝。
「……焦った……マジ焦った……。目の前にいきなりいたんだもんな……」
ついに危険な目にあったらしい。
すると、響輝はやつれていた表情を元に戻し、真剣な表情に変えてきた。
「でさ、ちょっと気になったんだけどよ……」
響輝はまた気になることが出てきたらしい。指を響輝がさっきやってきたほうに差したと思えば、そのまま向かって歩いていく。
一度、喜巳花とライトで顔を見合わせる。しかし、なにもわからないので、そのまま響輝のあとをついて行くことにした。
連れていかれた場所は階段のところ。しかし、ライトたちが一階に降りるのに使用した階段ではない。
降りてきたのは特別教室棟のほうであり、いま目の前にある階段は通常教室棟にあるやつ。
響輝はその階段を指さしつつ、ライトと喜巳花にある質問をぶつけてきた。
「この学校ってさ、……地下なんてあったか?」
そういった後、ポケットから地図を取り出し広げる。その地図の中には、地下なんてものはいっさい書かれていない。
ただ、目の前の階段は違う。ここは一階であるはずだ。本来であれば、上に向かって延びる階段だけが備わっているはず。
だが、ここには下に向かって延びる階段、すなわち地面を突き破る……地下へと向かう階段が備わっていたのだ。
電気がしっかりと届いておらず薄暗い。しかし、地下へと続く階段はほかと違い、踊り場が備わっておらず、直通で先にドアが用意されている。
鉄でできたドアだ。しかも、開き戸タイプ。
「さっき、化け物を倒して戻りつつ、たまたま見たんだけどよ……。なんか違和感を持ってよく考えたら、……地下ってよ……」
響輝が階段を下りていくので、同じようにライトと喜巳花も降りる。ライトの横で喜巳花はうなずきつつ、階段の壁を見た。
「……どうやろ? うちは……なんかあったような気がすんねんけどな……。入った覚えはないけど……。いや、知らんで? 知らんけどな」
そんな話をしていると、響輝は先にドアの前についていた。ドアノブに手をかけて力を込めている。だが、校長室の時と同じように、ガチャガチャ音が鳴るだけ。
「……やっぱ……開かねえよな……予想通りか……」
今度はそうそうに諦めドアから離れる響輝。軽くドアをノックするが、返事が返ってくることはない。
「この地下って……いったいなんなんだろうな」
「せいやっ!」
ガンッ!!
「これは……三好たちにも教えるべき情報だな。地下か……。脱出の糸口につながるかもしれないよな」
「いったぁ……。ほんま痛い……」
もう、喜巳花の持ちネタは無視されてた。
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