第3話 一階へ
***
和田ライトは響輝と喜巳花ふたりとともに一階に降りるための階段を降り始めていた。
昨日、響輝と奈美が話をしていた通り、二手に分かれて校内を探索することになっている。いまごろ、奈美たちも二階を探索し始めているはずだ。
「和田、お前は俺たちの間に入るようにしておけよ。お前をケガさせたりしたら、三好に怒られるだろうからな」
思わず奈美が響輝を説教する姿が頭の中で想像された。文音に対する時のような本気の怒りよりは一段階くらいレベルは低いだろう。
だが、それでもなかなかの怒りでにらんでいる姿が容易に浮かぶ。
「それは避けたい話ですね」
苦笑いしつつ、あらためて自分の位置をたしかめる。響輝が先頭を歩き、後ろは喜巳花。その間にしっかりとライトが入る。
階段ももうすぐ終わり、一階に降りるというとき、後ろにいる奈美から声をふとかけられた。
「なぁ、思ってんけど、別にライトがシステム使ってもええんとちゃうん? たぶん、強いで」
……まぁ……来るかもしれないなとは思っていた。
「別に……僕は構いませんけど……。……だからといって、高森さん、僕にシステムを預けてくれるのですか?」
喜巳花はしばらく考え込んだあと、響輝に視線を移し替える。
「響輝、ライトに渡してや」
「なんで俺が? その話なら普通、お前が渡す立場になるだろうが」
想定通りだった。喜巳花も響輝もシステムをライトに預けて身を任せるようなタイプの性格ではない。
というより、あの中でシステムをライトに預けてもいいと考える人物は……ひとりもいないはずだ。
せいぜい言って、一樹程度だろうが……。あの子だって、内面的には年上としての自覚はあるみたいだし、年下のライトに簡単に託すような真似はしないはず。
「別にだれが使おうと構いませんよ。それに、図体が大きいほうが有利なんだとも思いますし」
あくまでも思っている事実を述べたまでだった。しかし、そんなライトに向けて喜巳花はさらなる質問をぶつけてきた。
「そうゆうて実は、うちらにシステムを使わすよう誘導してるんとちゃうん?」
唐突な質問に思わず足が止まってしまう。喜巳花は意地悪そうにニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「……本気で言ってます?」
心なしか、響輝の表情に曇りが見えた。それはなにを意味しているのかは捉えきれない。
「むろんジョークやで。奈美がここにいたら怒られたやろうけどな」
喜巳花は笑い飛ばすようにライトの背中をポンとたたいてきた。それに押されるように、足を再度動かし始める。
喜巳花はジョークだと言って笑い飛ばしたが、内心では仕方ないとも思ったりしていた。
あくまでライトとしては現状の思ったことを述べたに過ぎないが、結果的にはシステムの使用を彼らに促したことになる。
文音は言っていた。この中に『システムを使わすよう誘導する人物』がいると。
ということは、必然的にその誘導する人物はシステムを使う側より使わせる側という想像になってしまう。
システムが六つあるというのだから、七人中、ひとりはシステムを持たない者がいる。そいつが……すなわち誘導する側のやつ……スパイだと。
そして、この中でシステムに一番触れていないのは間違いなくライトだ。
「自分で言うのもなんですが、自分が一番あやしい気がします」
……本当、自分が疑われても……言い訳の余地がない。……少なくとも自分だって相手の立場なら疑いたくなる要素が満載だもの。
だからこそ、……真っ向から否定はできない。
「お前、新垣があやしいと思うって自分で言ってたじゃねえか」
「……疑いを少しでも背けたいと思ってとっさに出た話ですよ」
もちろん、疑う余地はあるだろうけど……。事実、綺星は奈美を夜中に連れ出したということもあるし……。
文音と同じ変身システムの力を手に入れていたという点も、なにかしらのあやしさはでている。
「なんや、すました顔をしてるけど、実は結構、焦ってたりしてたん?」
「……柳生文音を見習ってノーコメントとしましょう」
普通は焦るに決まっているだろう。口に出して言うまでもない。
「それ、余計あやしくなるぞ?」
「あれ? ……そう言われたらそうですね」
なんで、こう自ら余計、あやしまれるようなことを言ってしまうのだろう。……もういっそ、心の奥底ではあやしまれたいと思っている説あるよね。
いや、あるわけないか。
なんて話をしていると喜巳花は急に響輝のほうへ近づいた。
「でも、ゆうて、響輝もあやしいところあんで。あの時、だれよりもスパイ探しに熱心だったの響輝やったもん。必死そうやったね。
あ、言っとっけど、うちはあやしくないないで! な!」
「……どうだかな」
響輝はそれだけ言って喜巳花から視線をあからさまに外した。
それ以降、少しだけ沈黙が起こってしまう。すでにライトたちの足は止まってしまっており、一階を降りたすぐそこから動けていない。
あの疑心暗鬼な雰囲気が戻りつつあるのは言うまでもなかった。
そんな空気を強引に破るように響輝が声を上げる。
「あ~、やめやめ! もう、どいでもいいだろ! これ以降、三好がいなくてもだれがあやしいとかいう話はなしだ! いっさいな!
空気が重くなってつれえんだよ」
「せ、……せやせや! せやで! だれや、そんな話しだしたやつ!」
「お前だ、お前!」
響輝が念入りに喜巳花のおでこを指で突き刺す。
その後、少し離れてライトと喜巳花を見渡す響輝。
「とにかく、もうこの話はなし! いいな!」
「おっけ、了解!」
「わかりました」
「べぇぇ」
……。
「「「べぇ!?」」」
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