第2話 ふたつの意見
昇降口が開いていたとしたら、化け物の侵入口になっているのでは、という奈美の考察。
それは、いまの一樹にとって非常に的を射ている話になっていた。
「もし、そうなら。昇降口を出た外って、もっと危ないんじゃないの? 化け物の巣があったりして……。と考えれば、この教室の中のほうが安全だよ。
少なくとも、閉め切る部屋と食料があるんだから」
響輝の表情は硬くなる。奈美の言いたいことも理解できているのだろう。しかし、簡単に首をうなずかせることはなく、むしろ一歩前に出る。
「……でも、同時に出口でもある……。もし、この状況から逃げる手立てがあるとすれば……そこしかない。それもまた事実だろ」
たいして奈美は素直にうなずいて見せた。
「そうだね……。だから、響輝くんの意見を完全に否定するつもりはないよ。
ただし、昇降口が開いていても黙って出ていくのだけはやめて。……なにが起こるかわからないんだもの」
奈美の忠告に、響輝は少し笑って見せる。
「……なんだよ。その言い方……だったら、お前も来て俺を監視すればいい話じゃないのか?」
軽い挑発にすらなっていた響輝のセリフだったが、奈美は真剣な表情で立ち上がると、響輝と顔を合わせた。
「あたしは別行動を取ってみたい。でも、君の意見である学校探索をするつもりだから」
「……意外だな……。どこを探索するつもりだ?」
「二階を回ってみようと思う。もし、昇降口から化け物が入るというなら、三階では化け物が少なく、降りるほど多くなる。とすれば、一階より二階が安全だしね。
あたしだって、このまま待っていてもなにも変わらない気はしてきたんだよ? でも、助かる方法はきっとある。それを探るために、あたしも動くよ。
なにより、この先には食料がある場所、ふたつも用意されているからね。あらかじめ行ってたしかめておきたい」
そう奈美は言い切ると、この教室にいる全員を見渡す。
「だから、その間。みんなはここで待っていてくれる? あたしたちも決して無理はしないから。少しでも危ないと思ったら戻ってくるから。
それまでの間、ここは喜巳花ちゃんと一樹くんにお願いしたい」
「待って、奈美ちゃん……あたしも行く」
急に声を上げて立ち上がったのは綺星だった。強い足ふみで奈美の前まで歩いていく。
「あたしもなにかしたい。邪魔はしないから……、自分のことは自分で守るから……連れてってくれる?」
綺星の表情はずっと硬く決心というものが見て感じ取れる。
やはり、新垣綺星、彼女はあの夜、文音と出会って大きく変わり始めている……。この中でだれよりも、成長し……向き合おうとしているように思える。
「ありがとう、綺星ちゃん。でも、危険だし……」
ただ、奈美は綺星を不安そうに見てそのほおをなでる。
奈美は綺星の成長を気づいているのだろうか……。いや、例えどうであれ、自分は年長者として、周りを守ろうということを最優先に考えるのだろう。
奈美の考えは基本的に一貫して、生き残ることを目標としている。生き残れば、いずれ助かる。助けが来るという考えだ……。
でも、そんな彼女もここで動こうとしだしている。このままではダメだと考え、行動を変えようとしている。
みんなを守るという考えは捨てないままで……。
「危険だっていうなら、なおさら、ひとりで行かせるほうがおかしいよね。奈美さんが行くっていうのなら、僕も……その……ついて行くよ」
ずっと守られる側にいるわけにはいかない。綺星だってその殻を破ろうとしているのだから、年上の自分が変わらないでどうする?
「……で……でもね」
奈美は戸惑いをまったく隠そうとせず、一樹と綺星を交互に見てくる。
「高森と和田ふたりを教室に残すのは心もとないってことか? だったら、ふたりは俺と同伴させるってことでどうだ?」
響輝の口から出た突然の提案に奈美はあからさまに表情をゆがめる。
「……なにを言っているの?」
響輝は奈美の顔をみつつ日本指、そして三本指を立てる。
「ひとりより、ふたり、ふたりより……三人って話だ。なら、六人って話になるかもしれないが……、廊下が狭いんじゃ以外と邪魔かもしれないぞ?
それに、付き人がふたりいたら、俺が暴走して昇降口を出ていくこともないだろう」
「なるほど、ええやん! うちは全然ええで!」
「……いや、暴走するやつがふたりになるかもしれないが」
「なんでや!?」
喜巳花の同意と同時、響輝はすぐに発言を撤回。
「でも……ライトくんは……別にいまシステムをもっているわけじゃないし……危ないんじゃない? ライトくんも……それでいいの?」
ライトは特に表情を変えることもなく小さく頷いた。
「別に僕は構わないですよ。むしろ、脇さんが僕のことを邪魔だと思わないかが重要だと思いますけど」
そう言ってライトは響輝を見る。響輝はそんなライトの頭をわしゃっと乱暴につかみなでた。
「邪魔なんかじゃねよ。お前は賢いんだ。俺たちの司令塔として活躍してもらうつもりだ。いいな?」
「なるほど。君たちふたりの頭は空っぽだもんね」
「こらてめ!」
「なんでや!」
奈美はライトに近づき、頭に乗っかっていた響輝の手を無理やりどかすと、代わりに自分の手をそっとおいた。
「悪いけど、バカふたりを君に任せてもいい?」
「もちろんです。まかせてください」
「……もしも~し、二年生に四年と六年の世話を頼むのは……間違ってませんか~」
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