第4章_探索と積み重なる謎

第1話 バカやる子たち

 ***


 東一樹はくるまった毛布の中で目が覚めていた。毛布越しに透けて入ってくる光で、朝なんだなと思いつつ、寝返りをうつ。


 と、同時に肘を床でうつ。

「……っ、……すぅ~、いった……」


 なんで、寝床がこんなに硬いんだよ……。

 少し痛む肘を押さえると頭までかぶっていた毛布がずれた。


「おう、東。起きたか」

 ふと、視界の外から声が聞こえてきた。まだまだ眠気が取れない頭を動かして声の主を探す。


「……うん? ……あぁ……」

 やがて響輝の姿をとらえることができた。視界がぼーっとぼやけている……。メガネ外してるもんな……。


 ……メガネ……メガネ……。


 手探りで探すがすぐに見つからない……。……あぁ……めんど。もう、いいや。


「……おはよう」

「と言って毛布をかぶるな。二度寝する気マンマンかよ」


 響輝の声が耳に入ってくるが気にせず毛布をかぶりなおす。……にしても、マジで床かたい……。ぐっすり寝たはずなのに、体中が痛いや……。


「……うん?」

 ……なんか……忘れてるような……。


「はっ!? ここって!!」

 すべてが思い出され一気に覚醒。体をたたき起こし、メガネをかけて辺りを見渡した。教室、毛布……ウエストポーチ……。


「……夢じゃなかった」

 思わず目を手でおおった。


「そりゃ残念だったな。ためしに俺がお前のほっぺでもつねってやろうか?」

「お断りします」


 自分のほおを押さえつつ響輝のほうに顔を向ける。響輝の顔を見ようとしたのだが、それよりも別の方向に視線を取られてしまう。


「……響輝くん……、なんで綺星さんの近くで座ってるの? 寝込み襲う気? もしかしてロリコンだった?」


「化け物のエサにされたいのか? うん?」


 静かに寝ている綺星の横であぐらかいて座っている響輝。見張りというには距離が近すぎるようだが……。


「……ったく……。なんか、昨晩いろいろあった見たいだぞ? 経験者はふたりとも爆睡中。よっぽど疲れたんだろうな」


 そう言いつつ響輝の指先が別の方向にも向けられる。そこには、綺星同様、シンと寝ている奈美の姿があった。


 響輝から話を聞くと、夜中にふたりがトイレに行き化け物に襲われたんだと。まったくもってそんなの気が付かなかった。


 ぐっすり寝られたととらえていいのか、危機感がなさすぎととらえるべきなのか。


 ふと、時計に視線を送る。時間は七時すぎを差していた。



 それから一時間もすれば、みんなものそのそと起き始めた。その中でも奈美は起きてすぐ綺星のもとへと駆け寄ってくる。


「綺星ちゃんはどう?」

「いや……まだスヤスヤ眠ってるよ」


 そう。もう八時はとっくにすぎて、ほかのみんなは完全に起床していたが、ひとり綺星だけはまだ寝静まっていた。


「……よっぽど怖かったんでしょうね」

 すでに事情は全員に知らされている。それはライトも同じ。気が付けば全員で綺星を囲う形になっていた。


「……生きてるやんな?」

「当たり前だよ」


 喜巳花にビシッと言う奈美。しかし、喜巳花はそれを気にも留めずテクテクと図工室の中を歩いていく。


 そして、部屋の端にあったティッシュペーパーを一枚引っ張りだしてきた。


「よし、試そや」

 ティッシュの両端を摘まみ綺星の鼻元へと持っていく。


「ぉお、ぉお、ヒラヒラ揺れてるわ。生きとる生きとる。生きてる証拠やね」

「喜巳花ちゃん? それ、もう遊んでるよね?」


 綺星の呼吸にあわせて揺れるティッシュを見ながらケラケラ笑う喜巳花。正直に言えば、一樹も笑いかけているのを必死にこらえていたりする。


 ちなみに響輝もはっきり笑っており、ポーカーフェイスを貫いているのはライトひとりだけ。


「よし、高森……貸してみろ」

「ええよ。どうするん?」


 ケラケラ笑いつつも期待する目で響輝を見る喜巳花。響輝はティッシュの両端を摘まみ、まだスヤスヤ寝ている綺星の顔とティッシュを交互に見る。


 で、そっと顔にかけやがった。


「……」

 響輝と喜巳花が静かに手を合わせてお辞儀。


「綺星ちゃんで遊ぶのやめい! どう考えても不謹慎すぎるだろが!」


 奈美が綺星のかけられたティッシュを奪い取りふたりを叱る。まぁ、この悪乗りはさすがに言い訳もないだろう。


「……うん?」

 ギャーギャーわめく三人の後ろで綺星が目をこすりながら体を起こした。


「あ……、起きてもうたやん」

「ほら、君らがバカなことするから。もう……」


 奈美がすぐに起きた綺星の近くに行って頭をなでる。

「ごめんね~。うるさかったね~」


 と言ってかかえられるが、当の本人である綺星はキョトンとしたまま。なでられるたびに顔がグワングワン揺れている。


「ぉお~、ぉお~」

 なんて声を漏らしながら奈美にされるがまま。


「新垣さん。おはよ~ございます」

 正座して土下座スタイルで、ま~ったりとあいさつをするライト。両手を上げてゆっくりと床に向けて降ろす。


 もうその動き、どっかの宗教のお祈りになってるぞ。


 一方で騒がしいふたり。

「ホンマ響輝はいらんことしぃやね」

「お前だけは言われたかぁねえよ!?」


 なんかもう、朝っぱらからカオス!


 そんな風にみんながバカやっていると、はっきりとわかるほどだれかのおなかがなった。朝ごはんの時間はとうに来ていることを知らしめる。


「……おなかすいた」

 ボソリとつぶやいたのは綺星だった。奈美の手の中でおなかを押さえている。

「だね……。朝ごはんにしよっか」


 全員でダンボールを囲みそれぞれ食料を取る。全員で手を合わせて「いただきます」で食べ始めた。


 リスみたいに小さくクラッカーをかじる綺星。缶詰も合わせてドンドン口に入れていく。ほおが膨らんできたと思えば、水で流してさらに食べる。


「……綺星ちゃん……随分勢いよく食べるね……。そんなにおなかすいてた?」


 奈美の質問に対して綺星は首を縦に振る。だけど、食べる口はいっさい止まらない。


「……マジですごい勢い食うな。……すげぇ」

 サバの缶詰を食べながら綺星の食いっぷりを称賛する響輝。


 すると喜巳花がなにやら意地悪そうにあるものを綺星の手元にもっていった。

「綺星。乾パンはどうや?」


 ずっと動いていた口がピタリと止まる。喜巳花が前に置いた乾パンの缶を見た綺星の顔はあからさまにゆがんだ。


「まだお気に召さないみたいだね。まぁ、別にいいんじゃないかな。豊富とは言えないけどほかにも食べ物はあるし」


 一応フォローを入れつつ、横から乾パンの缶を取る。だけど、綺星は一樹が取った乾パンを奪い返すようにつかみとった。


 乱暴に缶の蓋を開け乾パンをひとつ、口に放りこむ綺星。やっぱりおいしいとは思えなかったのか顔をしかめるが、水と一緒に飲み込み、さらにもう一口、乾パンを放り込んだ。


 この場にいる全員がそんな綺星に視線を寄せていた。


 なかでも奈美が口に手を当てて言う。

「……綺星ちゃん……、なんというか……一晩で変わったね」

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