真31話 取り戻した日常

 どんちゃん騒ぎをした翌朝、以前使った部屋の天蓋ベッドで目を覚ました私は「んん~~」と背伸びをしつつ、……が、ここで何かが変だと思い、自分の身体を見る。するとそこには一糸纏わぬ身体があった。


 「~~~~~~~~ッ!?」


 急に恥ずかしくなった私がガバッと目の前の掛け布団を引っ張る。すると──


 「むにゃむにゃむにゃ……」


 「セ、セレン!?」


 私が驚くとその声に反応したのか、瞼を擦り、「あ、おはようございます……」と言ってくる。私も「お、おはよう……」と返すが、隣で寝ていたことを思い出し、大声で叫んだ。


 「きゃああああああああ! セレンが私を襲ったああああああああああああ!」


 私の悲鳴に駆け付けた皆が部屋の前に来ると、先導したカレンが開ける。


 「シエテ様、開けますよ!」


 


 ガチャ!


 


 『ああっ!』


 「うう……助けて、カレン……」


 「もう大丈夫ですよ。全く……姉さんは油断も隙も無い、ド変態ですね!」


 「へ、変態じゃありません! こ、これはぎ、儀式的なもので……」


 「そんな儀式があってたまりますか! 早く部屋から出て下さい!」


 「うへへぇ……まあ良しとしますか。お宝は頂戴したので……」


 セレンが不敵な笑みを浮かべながらベッドから降りる。しかし、致命的なミスを犯す。


 


 ポロッ


 


 「ん? 何か落とし──」


 「あー! 私のパンツ!」


 「ギクゥ!?」


 すぐさまカレンが私のパンツを奪うと、ニコニコしながら姉に問い質す。


 「これは?」


 「え~と~……シエテ様のお、おぱんちゅ……わ、私のものにしようと……」


 「お覚悟はよろしいですか?」


 「ひいいいいいいいいいいい!」


 妹のお仕置きをスルっと躱し、部屋から出ていった。カレンが「おまちなさああああああああああい!」と屋敷を破壊しそうな勢いで手にしたお玉を振り回しながら追いかけていった。


 「あはははは……」


 何だか久しぶりにこの微笑ましい光景を見られた気がした私がポリポリと頭を掻くと、取り戻した下着や服を着始めるのだった。


 


                       ◇


 


 「──……姉さんは朝食抜きです。いいですね?」


 「あうぅ……」


 プシュ~と音を立てる様に大きなたんこぶがこんもりと出来たセレンにカレンが私や皆の朝食を運ぶ。これには私も「少しやり過ぎじゃないの?」と聞いて見たが、「姉さんにはこれぐらいしないと反省しないから」と返され、私も黙ってしまった。とりあえずカレンさんを怒らせない様にしようと心に決めた私だった。


 「シエテ、今日はどうするのだ?」


 すっかり呼び捨てが定着したアーサ王が私に質問する。ゼウスが私に言った日本に戻す件は三日後に準備出来ると言われたため、今日含めあと三日は余裕がある。何よりしばらく冒険続きで私の疲労もマックスだったため、他の王達からも「遊びにおいで」と言われている。今なら瞬間移動で基本的にどこへでも行き放題ということもあり、ミーヤちゃんと観光しようと考えていた。


 「ミーヤちゃん、このあと行きたいところある?」


 「う~ん…………全部!」


 「全部かあ~。うん、いいよ!」


 「おっと! そうであった。シエテにあれを渡さねば──」


 「あれ?」


 アーサ王が暇をしているセレンに「例の物を」と伝え、セレンが部屋を出ると、しばらくして何かを持ってきた。


 「シエテ様、こちらへ」


 「?」


 ちょうど朝食を食べ終え、珈琲をゆっくり飲んでいた私が席を離れ、アーサ王の元へ行く。アーサ王もその場に立ち上がり、セレンが持ってきた箱をゆっくりと開けた。その中には綺麗なペンダントが一つ、入っている。


 「シエテ・ペンドラゴン。我、アーサ・ドムルス・クライド・ペンドラゴンの名において、公爵の勲位を与える。頭を」


 「ッ! ……」


 どういうことか理解した私がその場に跪き、頭を下げた。私に王が直々に貴族の位を与えるということだ。剣を授かった際、本来であればあのパーティーでこうなる予定だったのである。それがうやむやとなり、結果として今日まで待ってもらっていたということだった。


 「うむ。良く似合っておる」


 「あ、ありがとうございます。綺麗……」


 首に掛かったペンダントを今一度見る。銀縁に私の顔が映るくらい透き通った黄色い宝石のペンダント。


 「その宝石はミーヤの手に握られていたものだ。もしかしたら彼女の何かが……」


 「モグ……!」


 「ミーヤは私が観光しよう。今シエテがすべきことは彼女の弟子に逢うことだ。きっとこれを見て何かわかるかも知れない」


 「はい……ううん。うん! 行ってくる!」


 「ああ、いってらっしゃい」


 私はミーヤちゃんの頭をポンポンと優しく撫で、杖を数回、床にトントンと叩いた。


 


             ◇


 


 ──────シュン!


 


 「……よっと!」


 「ん? シエテちゃんじゃないか! どうしたんだい? 出発はまだ二日後だよ?」


 湖の畔で釣りをしていたヴィアが私を見つけ、こちらに向かってきた。ヴィアには日本へ帰る事を伝えているため、特に私がこの湖へ訪れる理由はないと彼女は思っている。なので、突然やって来た私に驚いた様だ。まあそりゃそうか。


 「こんにちは、ヴィア。ちょっといい? 話があるんだけど……」


 「話って……帰ること? それならもう聞いたんじゃ──」


 「それとは別で、モグの弟子だったあなたに聞きたいの」


 弟子という言葉に反応したヴィアが真剣な表情に顔つきが変わると、「ここじゃあなんだから、家においで」と私を招いた。


 「──────それで? 弟子の私に何のご用事かな?」


 「これを見て欲しいの」


 私が服の中からペンダントを取り出し、ヴィアに見せた。すると突然、宝石が輝く。


 『わあ!』


 二人が驚くとその光は真っ直ぐヴィアに向かって当たる。いや、ヴィアのいる方向を示す様に光っていた。


 「ヴィアの後ろって……」


 「湖……だね?」


 二人は眼を合わせ、ツリーハウスを出ると、その光の射す先へ向かって歩いて行く。ヴィアの言う通り、この先にあるのは湖だった。が……


 「あれ? 湖の奥に向かってない?」


 「その様だね」


 湖に何かあるのではなく、湖の奥にある何かに反応している様子。不思議に思いつつも、私たちは奥へと進んでいった。


 「……ねえ、この奥って何かあったの?」


 「いや……私の知る限りでは何もなかったはず……だから不思議なんだよねえ~……」


 湖を囲う様に木々が密集しているこの森を抜けると確か、《アポロン》とここを結ぶ道があり、そのアポロンの奥がゼウス。ちなみに湖を中心に北の方角がそれであり、南にアルテミス、東にネプチューン、西にミネルバだ。つまりこのままアポロンに入り、その先のゼウスに行くと、後はだだっ広い海が広がっている(この世界の地図にはそう描かれている)。──と、ここでヴィアが立ち止まる。


 「あ、止まった」


 「え? 何にもないよ?光は?」


 「う~ん、ここら辺全体を光らせているねえ」


 「全体って……あ、じゃあお空とか?」


 「飛んでみたら?」


 「分かった」


 ペンダントを返してもらい、例の羽を出現させると、一瞬で空中へ舞い上がった……しかし、光は上を指すどころか、下を指していた。つまり……


 「……っと。この下を指してたわ」


 「地面?」


 「ええ」


 「ん~、じゃあ掘るしかないかぁ……」


 「【パーフェクト】!」


 


 ポッピン!


 


 「え? 何出すつもり?」


 「何って……これ」


 私は両手にスコップをスキルで出すと、一本をヴィアに渡す。


 「はい」


 「え……てっきり、スキルで掘るのかなと……」


 「バカね、そんなことをしてもし、モグの大事な物に傷がついたらどうするつもりよ! ほら、わかったらさっさと掘った、掘った!」


 「う、うっす……」


 


                                     ◇


 


 ────ジャコジャコと地面を掘り進めると、ヴィアの持つスコップからコツン! と甲高い音が聞こえた。


 「ッ! 何かあった?」


 「それを今見るとこ……っろ!」


 二人が穴を覗き込むと、そこには中くらいの木箱があった。地上に運び、中を確認する。すると……


 「ッ!?」


 「ほほう?」


 そこには臙脂色の分厚い本が一冊入っていた。


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