第8話:作戦実行。

「準備はできたか?」

『うん。いつでもいけるよ』

「この電話を切ったらすぐ頼む。今日で終わらせるんだ」

『分かってるよ。それと頼まれていたものもこっそり取ってきた。代わりに違うものをつけてきたから、多分バレないと思う』

「ありがとう。感謝する」

『当たり前の事をしただけだよ。僕に出来るのはこのくらいだから』

「次の休み時間に取りに行く。じゃあまた」

『了解』


 昼休みが終わる10分前に柳斗真と電話し、最終作戦に踏み込んだ。

 朝原は自己顕示欲の塊だと、プライドが高い男だと豊田が言っていた。それを利用させてもらう。俺達が行動を起こせば、その重い体は動き始めるはず。今まで手の平で転がされていたが、今度はこちらが転がす番だ。思い通りにはさせない。今日ですべてを終わらせるんだ。


「晴人、この前見せてくれたSNSコミュニティのサイトみせてくれないか?」

「ああ、いいよ」


 スマホを取り出し、それを受け取る。自分で見ればいいのだけど、登録していないので見ることができない。登録しとけって話だよな。


「よし、ちゃんと投稿されてるな」


 画面を確認し、スワイプして写真が二枚掲載されていることもしっかりとチェック。これなら問題ない。

 そしてコミュニティにはこう書かれていた。



『今まで流していた、綾瀬霞はビッチという噂は僕が流したデマです。朝原周という人から頼まれてやっていました。軽率な行動をしてしまい申し訳ございません。僕のせいで一人の女の子を傷つけてしまいました。これは紛れもない事実です。今までのログを遡ってもらえれば僕が全部投稿していたことがわかると思います。それともう一つ。彼らは真剣に交際をしており、証拠として本人から二枚の写真を受けとっております。見ればわかる通り、とても幸せそうな二人のカップルなんです。僕が今まで流してきた噂はただのデマでしかありません。それによって一人が傷ついてることを知ってください。僕が言える立場ではございませんが、二人の関係です。他人があれこれ言う立場じゃないことを理解してください。これは僕なりの贖罪です。二人の事は静観でお願いします。二年三組、柳斗真』



 自分の名前までしっかりと書いていた。自分が責められる立場にあることをしっかり理解して、逃げずに書いた。ここまでするとは思ってなかったが、よく逃げなかったと褒めてやる。

 お願いした通りに写真は二枚掲載されていた。

 一枚は屋上で撮った写真。

 二枚目は、霞が俺の頬にキスしている写真。

 実はしっかりと霞から頂いてた。本当はこの可愛すぎる霞の写真は誰にも見せたくなかったのだが、信ぴょう性、それとラブラブ具合を出す為には必要だったからだ。最も、一番の理由は朝原をおびき出す為の餌だ。柳は朝原の名前も書いていたので、あいつは出ざるを得ないだろう。

 これで噂が収束に向かってくれればいいのだが。


「何見てるのー?」

「いや、何も。霞には関係ないよ」


 スマホ画面を見えないように隠す。


「じゃあ隠す必要ないじゃん! 見せてよ!」


 制服の袖を引っ張られ、スマホを取ろうとしてきた。


「ちょっとそれ俺の携帯なんだけど……」


 そうだそうだ。晴人に返そう。なので晴人にスマホを返した。


「霞、そろそろ教室戻った方がいいぞ。後二分で予鈴が鳴るし」


 言った通り、残り二分弱くらいしか時間はなかった。でもこのくらいまでここに居ることは好都合で、早めに教室に戻って朝原が来ていたら、それはそれでまずい。

 とりあえず次の休み時間に例の物を、柳から受け取らないといけないので、そのついでに朝原が来てないか確認しておこう。


 返したスマホを見るや否や、晴人が「何この写真!?」と割と大きめの声で言った。その声に反応した霞は俺の言葉は無視して、「見せて見せて」と言う。慌てて俺は見ようとする彼女を阻止した。


「さっきから何なの? そんなに見られちゃまずいものなのかな? もしかしてえっちなやつ?」

「んなわけないから! マジで!」

「怪しぃ~」


 ジト目でこちらを見てくるが、本当にやましいものではない……。……やましいな。ある意味。うん。やましいです。

二人で晴人のスマホを取り合いをしていると、チャイムが鳴った。ナイスタイミング! 


「チャイム鳴ったぞ! 早く教室戻りな」

「むむむっ! 晴人くん! 後で見せてね!」

「え!? それはちょっと……」

「やっぱりやましいんじゃん!!」


 ふんすっー! と鼻を鳴らしながら、教室を出て行った。


「千草、お前……」

「これも大事な一つなんだよ。文読んだろ? 犯人をおびき出す為の作戦なんだよ」

「あぁ、昨日言ってたことか」

「ま、そういう事。今日一緒に帰ろうな」





*****





 千草も晴人くんも二人してなんだよ! ふんっだ!

 今はチャイムが鳴ったから仕方なく教室から出たんだからね! と名残惜しく言ってみたり。

 廊下を歩き、教室に向かって歩いていると、他にもこれから教室に戻るであろう生徒はちらほらといた。


 それに伴って、こっちをやたら見られている気がするのは私の気のせいだろうか? 昼休み前はこんなに見られていたかな? と疑問に思う。……もしかしてまた違う噂が流れ始めた? でも噂を流してたのは柳くんだし。


 ……まっ、気にしたって仕方ないか。ここは一つ無視と行きますか。

 教室に入り、見渡すと柳くんと目が合った。それにやっぱり視線とちらほら声が聞こえる。彼は私と目が合うや否や、親指だけ立てて、グッとポーズを送ってくるし……。もう何なのなのさぁ。

 とりあえず席に着き、鞄にお弁当をしまう。


「綾瀬さんの噂って嘘だったんだね」

「えっ?」


 前の席に座っている子から突然話しかけられ、その内容は私には見当もつかない事だった。


「どういう事?」

「見たよ、これ。柳くんが頼まれてこのSNSコミュニティに流してたらしいね」


 携帯の画面を見せながら、彼女は言った。その画面を見ると、私と千草のツーショットが載せられている。しかも一枚は頬っぺたにチューをしている写真。あいつさっき隠してたのこの写真だな! これ持ってるの千草と私しかいない。


「ちょっと詳しく見せて!」

「いいよ、はい」


 携帯を受け取り、詳しく文面と写真を見た。そして柳くんの方へ視線を移す。

 ぺこぺこと頭を下げていた。

 絶対千草の仕業だ。間違いなくそうだろう。柳くんは千草に頼まれて、これを投稿した。さっき電話していたのも柳くんだし。

 でもこんなの朝原先輩が見たらやばいんじゃないの……。それも織り込み済みか。

 むっー。なんで隠すのさ! 言ってくれれば私だって心の準備ができたのに! あとでみっちり説教決定! 戯け者の千草に鉄槌を!


「はーい。授業始めるぞー。今日は教科書の53ページなぁ。ひらけー」

 先生が入ってきたので、とりあえず授業に集中しよう。————ってできるかーい!!


 考え事が巡って、全然先生の声が入ってこない。

 これで噂は解決に向かうのかな? とか、朝原先輩がここにきたらどうしようとか、周りの人達に色々聞かれるのかなとか……。そして次の休み時間が少し怖い。嫌な予感がする。何もないといいんだけど……。


 それからというものの、授業には集中できず、先生の声は右耳から左耳へと抜けていった。


 キーンコーンカーンコーン。


 鐘がなり、ハッと気付く。もう50分経ったのかぁ。

 千草に追及すべく、椅子から立ち上がった時だった。

 教室の前方の扉を見ると、そこには朝原先輩が立っているのが見えた。なんで……、なんで……もういるの……まだチャイム鳴ったばかりなのに……。

 途端に身体が震え、足が竦み崩れるように座ってしまう。


 怖い……。怖いよ……千草……助けて……。


「まずいことになった。廊下立っている三年生は朝原先輩だね?」


 そう言ったのは柳くんだった。気が付けば、私を隠すように扉から見えないように立ってくれていた。


「うん……。どうしよう……千草ぁ……」

「綾瀬さん、落ち着いて。千草くんはここに来る。連絡はもうしてあるから。来るまでの間は僕が……僕が何とかする。くそ、あの人がここに来るのは予想外だな」


 柳くんが言ったことで何となく理解した。あのSNSは朝原先輩を動かす為の投稿だと。だけどそれは千草の所に行く予定だった。ここに来ることは想定外だと……。


「千草……はやくきて……」

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