第3話:プレゼント

 パルコに到着し、中へと入った。

 世間はもうクリスマスモード。ハロウィンが終わったかと思えば、クリスマス。

 好きな人に渡すプレゼントを考えながら一喜一憂。そんなことしてみたいわと思いながら、店をチラチラ見ていた。

 煌びやかに装飾された店ばかりで圧倒される。それはもうキラキラピュワーンって感じで目が疲れる。残念ですが、サンタさんはこの世に存在しません。存在するのはサンタの資格を持った人です。意外と資格を取るのは難しいだとか何とか。


「ねぇ、なんか欲しいものある?」

「ないです」


 食い気味で即答した俺に対して、彼女は少し思案し、口を開く。


「本当に高校生かな? 君は。普通いろんなものが欲しくなるお年頃じゃないの? 物欲より性欲かな?」

「当たらずといえども遠からずってところですかね」

「やっぱり高校生だ!! そんなえっちしたいの?」


 したいに決まってんだろ。童貞とかいらないステータスだし、いつまでも引きずって魔法使いになったらどうするんだよ。責任とってくれるの? とまあ、彼女の横顔を一瞥しながらも、堂々とこんな事は言えないので、ごほんっと咳払いをして、一般的にはと前置きした上で話を進めた。


「男子高校生っていうのは、卒業するまでには卒業したいという漠然とした目標しかないんですよ。勿論、好きな相手とですけどね。それが男子高校生のスペックになるというか、早ければ早いほど、讃え崇められる。みたいな? そんな感じです」

「馬鹿だね。本当に」


 呆れて、ぐうの音も出ないご様子だった。

 ついでに言うと、相手も初めてだと優越感に浸れて、『初めての男』と言う称号もついて来るらしい。別にいらんけど。男は最初になりたがり、女は最後になりたがるとはよく言ったものだ。


「馬鹿なんです。これに関しては致し方ない」


 はぁっとため息を漏らしながらも歩いて行く。ねぇ、ちょっと? 俺もその他大勢に入ってるみたいな感じで呆れるのやめてもらえます? 違うよ! ホントニチガウカラ。

 それから上の階へと上がり、紳士、メンズコーナーへと向かう。

 たくさんのお店が入っており、見渡す限り冬服のオンパレードだ。ニットやらダウンやら暖かそうなものばかりが取り揃えられていた。


「もう冬か。早いな」

「そうだね。秋服はちょっとしかなさそう。ちなみに、普段はどういう服装着てるの?」

「普通ですよ。俺、あんまりファッションにこだわりないですから。あんな感じです」


 マネキンに指をさす。

 そのマネキンが着ているのは、上はトレーナーにMAー1、俗に言うボンバージャケット。下は黒のスキニーにスニーカー。

 ごく一般的な服装だ。どちらかと言えば動きやすさ重視の服装を選んでる。トレンチコートとかダッフルコート、Pコートなどのコート系は基本着ない。あれ寒いし、動き辛いから。


「へぇ、見て見たいかも。今週のお休みは私服デートしようよ」

「嫌だ。休みは休むためにあるの知らないんですか?」

「じゃあ土曜日ね!」

「話聞いてた?」

「聞いてない。というか聞かないよ」


 出たよ屁理屈女。聞いてただろ嘘つくな。

 何も言い返すことができず、黙っていると再び彼女は口を開いた。


「黙ってるならそれは了承として受け取るけど?」

「黙ってなくても、何かに託けて勝手に決めるでしょうが」


 にんまりと顔を綻ばせ、「楽しみだなぁ」とぽしょり。聞こえてます。

 まあ嬉しそうにしているし、俺といるのが楽しいなら今はそれでいいか。気まずい訳でもないし、彼女とは一緒にいても疲れないからな。それに彼女だからってのもある。


「まあ霞とだから行くんだからね」

「へっ!? そんなおだてても何も出てこないんだからね! 一万までなら買ってあげるからね!?」


 出ちゃってる出ちゃってるから。別にいらないし、無理しないでね。


「本当にいいから。欲しいものなんてないですし」

「ま、いいからさ! とりあえずこの店入ろっ」


 背中を押され、無理やり店に連れ込まれる。

 店に入ると、よく聞く『いらぁっ~しゃいませぇぇ~どうぞごら~んくださいませぇぇ』と言う声が届く。それマニュアルでそうしろと書かれてんのか? 気になって仕方ない間延びした挨拶。

 ぶらぶらと店内を周り、一応見てみる。やっぱりトレーナーかパーカーが楽でいい。そして何より安いものは安いし、暖かいから。


「千草ー、これはどう?」


 霞が持ってきたのは、分厚めのグレーのパーカーで、左胸に小さくワンポイントついている撥水、防風性能付きパーカーだった。

 だがしかし、その類のものは割と値が張る。


「それデザインもシンプルでいいんだけど、絶対高いから……多分一万超えるよ」

「え、そうなの?」


 値札を見て、驚いていた。


「うわあ、ほんとだぁ」


 家に一枚あるけど、それも高かった。奮発して買ったけど、大事にし過ぎて全然着てない。

 彼女は肩を落とし、値札とにらめっこしながら「これはちょっと高いなぁ」とつぶやいていた。


「あのさ、俺の誕生日は言ったけど霞の誕生日はいつなの?」

「わ、私っ!?」

「あなた以外に誰がいるんですかね?」


 背後に誰か立ってんのかよ。こえーよ。てか見えねーわ。


「それもそうだね……実は……明日……なんだよね……」


 明日ね。明日。…………えっ!? 明日!?


「まさかの一日違い!? 言ってよ!」

「えへへ、照れますなぁ……」


 いや、別に誰も褒めてないんですけど馬鹿ですか?


「んじゃ、せっかくなんで俺も何かプレゼント買いますよ。プレゼント交換ってことでどうです?」

「いやいや! 私欲しいものなんてないから! 別にいらないよ! それに私は今こうやって一緒にいてくれる事がプレゼントみたいなものだし……」

「人にはやたらプレゼントしたがるくせに、いざ自分の事になると遠慮するのはずるいと思うんですけど。あと一緒にいるのは当たり前ですよ」


 とは言え、女の子にプレゼントなんてした事ないから何を買えば良いかなんて分からんな。欲しい物を素直に言ってくれた方がこちらとしても買いやすいし、欲しいもの貰った方が嬉しいと思うんだが。俺は。

 急に「はい! これプレゼント!」って渡された時に、もし全然いらない物だったとした場合、反応に困る。演技なんて絶対できない。顔引きつって「あ、ありがとう……」ってなるもん。これあれだわ。付き合うとか向いてない奴だわ。


「千草にとっては当たり前かもしれないけど私にとってはそうじゃないの。考えておくよ」

「はい。お願いしますね」


 よかったよかったと思いながら、服を一緒に見ていると、後ろから俺ではなく彼女の名前を呼ぶ男の声が聞こえてきた。


「あれっ? 霞じゃん。久しぶり」


 その声に反応する様に俺は振り返る。隣に立っていた彼女も同様に振り向いた。

 そこには別の高校の制服を着た男が立っていた。


「夏樹……」


 小さく発せられた声音は少しばかり震えていた。彼女の手は俺の制服の裾を摘み、後退りして身を隠す。

 裾を掴んでた手を握ると、その小さな手は小刻みに震えていた。


「そんなに警戒しなくても何もしないよ」

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