その恋は枯れ果て、また芽吹き始める。

第6話:有川きさ

 屋上で霞先輩から今まであった事を聞いた。

 彼女は容姿が良い故に、妬み嫉みが蔓延していたという事。

 男子からはよく告白されていたけど、全て振っていた事。

 高校に入学してから半年たった頃から、ビッチという噂が出始めた事。


 この噂が出た理由も彼女は全然わからないと言っていた。気がつけば周りの見る目が変わり、友人も離れていき、孤立していたらしい。

 最初は否定していたが、言っても伝わらない。だから全てを諦め、噂によって作られた綾瀬霞という偽物へと変わるしかなかったと。


 彼女はお淑やかな美女とは違って話しかけ辛い訳ではないし、嫌われる要素が嫉妬だけ。

 明るくて、天真爛漫で笑った顔が可愛くて、でもどこか作ったような笑顔だけが、気になるくらいで。

 取っ付きにくいイメージではない。友達も多かったのだろう。


 だが、どうして噂が広がったのか。

 話を聞きながらも、要因に繋がるところを探してはいたのだが、あまりにも情報が少なすぎた。

 考えてもすぐには原因は突き止めることはできない。時間も時間だ。太陽も真上に昇って来た事だし、この辺で教室に戻ろうと屋上を後にした。

 

****


 昼休み、教室に入るともわっと色んな食べ物の匂いが鼻を刺す。


「くせぇ……」


 鼻に手をやり抑える。よくこんな臭い教室で飯が食えるな。美味しいものも不味くならんのかいな。


「千草」


 鼻を抑えながら、呼ばれた方を見ると、晴人がこっちに来いと手招きしていた。

 彼の席は窓側の一番後ろで、俺の後ろでもある。

 とぼとぼと歩きながら、自席へと向かった。


「お待たせ」

「おせーよ。HR終わったくらいに戻ってくると思ったぞ。休みになるたび野木センがお前を探し回ってたぞ」


 席に着いて、弁当箱を取り出し、晴人の机に広げる。臭い部屋でとか言ってたけど、大抵の場合、慣れてしまって匂いすら感じなくなるものだ。


「マジか。どうでも良いし、俺は会いたくないわ」


 野木セン俺の事どんだけ好きなんだよ。今も俺に会いたくて震えてんのかな。いや、気持ち悪いわ。そもそもなんで俺をそんなに探す必要があるのか分からん。

 屋上に来なくて安心。寝てたから気付かんかっただけかもしれんけど。


「それと、あと……有川もお前を探してたぞ」


 有川ね。有川きさ。…………んん? 有川!? 

 有川きさ。そう、彼女は俺が告白した相手で振った張本人だ。

 彼女は小柄であり、すべすべの白い肌、少し垂れた目、透き通った瞳。泣きぼくろが可愛さを増させているのだ。髪型は茶味がかった好みのボブヘアー。そして何と言っても、華奢なのに持ってる物は大きいという事実。けしからん。

 男子には結構人気で、ライバルが多い。まあ、俺は予選落ちしたんだけどね。

 今は教室にはおらず、多分食堂でお昼を過ごしてるんだろう。


「何で!?」

「知るか。本人に聞け。トーク送ってみるって言ってたぞ? 通知来てないのか?」

「マジか!!」


 ポケットに入ってる携帯を勢いよく取り出して、確認すると……通知は来ていた。



『今日学校に来てる事は晴人から聞いた。話したい事があるの。放課後、少し時間くれない? 外の渡り廊下近くにあるベンチに来てほしい』



 喜びと不安が交互に感情を揺らす。どっちに捉えれば良いのか。

 昨日の今日で話したい事とはなんなのだろうか。昨日、俺は彼女に振られたんだぞ。話すことなんて何もなくないか? 委員会や部活をやってるわけでもないのに。


「………い……草……」


 とりあえずあと3時間といったところか。午後の授業は現代文と体育か。問題ない。あっという間だ。


「おい!! 千草!!」

「ふへっ!?」

「何だその驚き方。気持ち悪いぞ」


 耳がキーンとなり、非常に不愉快な気分。耳を抑えながら晴人に反抗する。


「うるさいんだよ。普通に呼べよ」

「呼んだわ。聞こえてないのはお前だ」


 はぁ? 嘘つくな。

 聞こえてないんじゃない、聞いてないだけだ。

 ……おっと、誰かさんの屁理屈が移ってしまった。


「んで何?」


 弁当から唐揚げを取り、口に運ぶ。だけど冷てぇ。


「なんて来てた?」

「にゃんかはなふぃたいわしぃ」

「食い終わってから話せ。汚ねぇ」


 ゴクリと、飲み込んで箸を置き、少し間を作ってドヤ顔で言ってみせる。


「俺に会いたいらしい!」


 晴人は、はぁ~と溜息をつき、背凭せもたれに背中を預けると、呆れた視線を送ってくる。あからさまに呆れているという事だけは見て取れた。


「何だよその反応」

「だって嘘じゃん。『にゃんか』言うてましたやん。絶対それ『俺』じゃなくて『なんか』だし。ドヤりながら言ってるけど少し考えたらわかるわ」


 おかしいな。晴人より俺のが断然頭良いはずだから気付かんと思ったんだけど。こいつさては、頭は悪いけどIQ高い系か?

 俺は咳払いをして、改めて答える。


「なんか話したい事があるらしい。何かは知らんけど」

「そうか。喜べる話しだと良いな」


 正直、良い話だとは思えなくて仕方ないが、変に気を落としてる感じに取られまいと、今できる精一杯の笑顔で返した。


「だなっ!」


 昼休みもわずかしか時間がなく、残りの弁当を一気に掻き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る