球技大会4
「お、間に合ったか」
結局隼人の大活躍でほとんど休む間もないまま決勝まで戦い抜いた俺たちは、同じく決勝まで勝ち上がったというドッジボールの応援に来ていた。
「にしても、男子の主力はサッカーが持っていってたから、こっちは正直ここまで行くとはって感じだな」
真がそう言いながら俺と暁人の話に加わる。
「あれ? 隼人は?」
「ファンサービス中だ。まあそのうち来るだろ」
「なるほど」
言っている間に試合の準備が始まる。
そこでようやく、初めてドッジを見に来た観客たちが異変に気づいた。
「あれ? なんか相手チーム、顔色悪くないか?」
「いや、うちのクラスのやつらもなんかおかしいぞ?」
「お? ギリギリ間に合ったみたいだけどこれなんだ? どういう状況だ?」
遅れてやってきた隼人が瞬時に気づくほどの異変。
原因はわかってる。
「よーし! 決勝だー! 頑張ろー!」
「「「おー……」」」
有紀だ。
「康貴はなんかわかってる顔してるな」
「いや……見てたわけじゃないけど想像がつくというか……ああ、二人にわかりやすく言うなら」
そうだ。暁人はともかく隼人と真はまなみを見てるからな。
「有紀は勝利の女神の師匠……いや、創造主みたいなもんだよ」
「「え……」」
二人から質問が来る前に試合が始まる。
ジャンプボールで始まるドッジボールの試合。
相手は俺より身長がありそうな男子なんだけど……。
「なっ⁉ いま何センチ跳んだ⁉」
真が思わず声を上げるほどの跳躍を見せた有紀がジャンプボールを制する。
驚くべきはそれだけではない。
「いまの、何が起きた?」
ジャンプボールから着地した瞬間身を翻した有紀は、そのまま自分でジャンプボールに追い付き、再び反転。
目を離していれば確かに見失うほどのスピードで、ジャンプボールから数えて二度の急激な方向転換を見せ、その勢いそのままに……。
「いっくよー!」
――ブォン
風を切る音がここまで聞こえるほどの剛速球が敵陣を切り込んでいく。
有紀の放ったそのボールは狙い通り、寸分違わずまずジャンプボールに出てきた相手クラスの男子に命中する。だが有紀のボールはそこで勢いが死なない。
「きゃっ!」
「うぉっ!?」
そのままビリヤードのように追加で二人の相手生徒に命中し、それでも勢いが衰えないボールは外野にいる味方ですら取ることができず体育館の端っこまで転がっていった。
というかあれ……。
「一人目、大丈夫か?」
「まあ、ガタイが良いから大丈夫だと思うけど……」
「ってことは敵だったらあれを食らってたのは俺かよ……良かった、このクラスに転入してくれて……」
真が心の底から絞り出すようにそんなことを言っていた。
他のクラスでもサッカーを選んでいれば避けられたんだが、まあどのクラスもまさかドッジボールにこんな化け物が登場するとは思っていないだろう。
唯一の男女混合種目。
ポイントは高いものの男子は人数が奪われるサッカー、女子は運動神経のある人間でなければ競技が成り立たないバレーなんだ。
男子は男子への攻撃しか認められないという特殊ルールをわざわざ設けた学校側の配慮ごと打ち砕くイレギュラー、それが有紀だった。
「そりゃあんなもん毎試合見せられてたら味方でも萎縮するわな」
「まなみが可愛く見えるわ……」
相変わらずの滅茶苦茶さにどこか少し安心したような気持ちになりかけたところで、冷静になる。
まなみだけで持て余してたのにこんなパワフルな幼馴染が増えたという事実。しかも積極的にこちらを巻き込みに来る相手だ。
「まあ、とりあえず優勝を祝おうか」
当然のように相手を完封して圧勝した有紀たちに、見ていたクラスメイトたちと一緒に声をかけに行った。
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