バイト

「わー! 二人ともよく似合いますねー! さすがまなみの推薦だぁ!」




バイト初日。

オープン前の喫茶店で俺と愛沙は制服に着替えて並んでいた。


「三島さんのとこだったのか」

「知り合いなの? 康貴」

「ああ、応援団で一緒だから。まなみの友達だって」

「そうです! でも先輩、ここじゃお父さんも三島だから、陽菜って呼んでください!」

「ああ……そうか……」


バーカウンターの奥で準備をする眼鏡のシルバーグレー、三島さんのお父さんと目が合って会釈された。


「なんか……まなみの友達って感じね」


元気あふれる三島さんを見て愛沙が若干引き気味だった。俺と一緒に来たせいか普段の優等生モードよりちょっと緩んでる感じがある。


「意外だったんだけどもうひとり一緒にいる子は大人しかったぞ」

「あっ! 三枝ちゃんですか?」

「そうそう。二人といるのは意外だなと思って」

「あははー。いつも三枝ちゃんにまとめ役やってもらっちゃってるので」


不思議な関係だがまあ、バランスを取る役目も必要なんだろうな。

まなみが良い友人に恵まれてることに俺も愛沙も安心して笑い合った。


「さて! じゃあ接客の基本をお伝えしますので気合を入れてくださいね! 学校ではお二人が先輩ですがここでは私が先輩なので、私のことは陽菜ちゃんと呼ぶように!」

「なんでだよ……」

「さー! まずは挨拶からです! お腹から声出してくださいね! いきますよー!」


オープンまでの間みっちり三島さんのレクチャーを受け、何とか人前に立たせて良いということになった俺と愛沙は、ヘトヘトになりながらもその日の仕事を終えることができた。



「愛沙先輩……シフト結構多めに入ってもらえますか?」


閉店後のカフェで三島さんが真剣にシフト表と睨めっこしている。

ちなみに呼び方は三島さんとマスターで使い分けるということで了承してもらっていた。


声をかけられた愛沙はなぜか俺の方を見てこう言う。


「えっと……良いのかな?」

「俺が決めるのか……?」

「もうっ! 二人ともでも良いですよ! でも流石に毎回二人セットはダメなので、私がいる日は康貴先輩、お父さんの時は愛沙先輩だと夕方とかは平日十分回せると思うんですよ!」


まあ役割分担というか、俺と愛沙だけで入るわけにもいかない以上そうなるだろう。

愛沙はちょっと寂しそうな顔をしてちょんと俺の制服をつまむ。


「今日みたいな休日は二人で来て欲しいのでそこは安心してください。というより、一日でファン作っちゃうなんて凄すぎます! 流石まなみちゃんのお姉さんというか、私たちの学年にも美人って噂されてますけど実物はそれ以上でした! お父さん! 給料あげて良いよね?」

「えっ!?」


想定外のフリにコーヒー片手に新聞を広げていたマスターが初めて動揺を見せていた。


「康貴先輩も多分、今日の様子だと先輩目当てのお客さんは来そうですし、二人とも即戦力でした! 料理も任せられるし! あとはお父さんにコーヒーの淹れ方教わればもう、お店継げます!」

「えっ!?!?」


マスターがついに立ち上がっていた。


「まあ冗談は置いといて、俺は応援団とまなみの家庭教師くらいしか予定はないからそれ以外入れてくれて良いよ。応援団の日にちは一緒だしわかるだろうから」

「そうですね! そうなると私たちが応援団の時は愛沙先輩に頼っちゃうことになりますが……」

「私で良いなら」

「ありがとうございます!」


そんなこんなでなんとか初日を好評のうちに終えた俺たちは、喫茶店を後にした。


帰り道──


「康貴にお店継がせたがったってことは、あの子康貴と結婚とか……」

「いやいや……」


暴走しかけた愛沙を宥めながら帰る。

一言だけ言っておきたいことがあったんだ。


「……」

「なによ」

「いや……その……似合ってて、可愛かった」

「〜〜っ!? どうして急にそんなっ!」

「言っとかないといけないと思ったんだよ」

「……そう」


顔を真っ赤にしながらパタパタ手で顔をあおぐ愛沙を見て、言っておいて良かったなと感じることができた。

顔は怖かったけど。

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