いたずら

「康貴くんがどうしたいかで考えたら良いんだよ!」

「俺が、か」

「そうそう! 康貴くんは割と周りに合わせてあげるタイプだけど、こういうのは自分の気持に素直になるべしっ!」


 なるほど……。

 でもそれを言うなら……。


「秋津こそ、周りに気を遣いすぎだ」

「あれっ? 私が諭されてる⁉」


 そうこうしているうちに河原にたどり着く。


「おっ! お二人さん、焼きそばできるぞ」

「というか遅かったな? 二人で何かしてたのか?」

「なんもしてないわ!」


 隼人と真に答えながら河原に降りていく。


「いやーでも水着女子と二人っきりで何もないのかぁ?」


 暁人が俺の肩に手を乗せながらそんなことを言う。

 水着と言ってもラッシュガードを着ていれば普段と露出は変わらないしな……。

 だがその一言は俺よりもむしろ愛沙に飛び火したらしい。


「康貴、何したの?」


 久しぶりに本気で睨まれた気がする……。怖い。


「な、何もしてない。トイレ行って戻ってきただけだ」

「……そう」

「まあちゅーの話はしてたけどね」

「おい秋津っ⁉」


 何でついたかわからない火に油を注ぐ秋津。

 愛沙の表情が一段と冷たくなる。


「そう……」

「いや待て。秋津、どうするんだこれ」

「今日は康貴くんが連れてきたから康貴くんがなんとかしたら良いと思いますー!」


 さっきの意趣返しと言わんばかりに秋津が俺にほっぽり出した。

 ほんとにどうするんだこれ……⁉

 と思っていたら愛沙が突然吹き出した。


「ふふっ」

「なんなんだっ⁉」

「康貴が戻ってきたらこうやってからかおうって話してたんだけどね、こんな焦ってくれると思わなくて」

「お前なぁ……」


 いやこの場合怒るべきは……。


「暁人……」

「なんでこんなに候補がいる中で俺をピンポイントで⁉」

「お前くらいだろ! この中でそういうことをやるのは!」

「すごい信頼だな……まあ認めよう。俺が主犯だ」


 とりあえず暁人を川に投げ込んでおいた。


「ふふ。仲良いわよね。滝沢くんと」


 愛沙が笑いながら近づいてくる。

 そして俺にだけ見えるように顔を向けてきて、改めて聞いてくる。


「で、莉香子と何話してたの?」

「あれ? さっきのって演技だったんじゃ……」

「ちゅ……キスの話なんて女の子とそうそうすることないと思うんだけど……」

「えっと……」


 愛沙の表情はどこまで演技かわからないほどに怖かった。

 愛沙が何に怒っているのかについてはまだ、考えないようにすることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る