バーベキュー3
「愛沙、大丈夫か?」
「えっ?」
バーベキューが始まってしばらくすると、愛沙は一人で川に足を突っ込んでぼーっとしはじめていた。
「自分でも言ってたし隼人たちから聞いたけど、こういうの苦手なのか……?」
俺も愛沙の横に腰を下ろす。
すこしひんやりした川の水が気持ちよかった。
「えっと、そういうわけじゃないんだけど、ね?」
「ね? と言われても……」
だめだ。最近ちょっとずつ理解しかけたと思っていた愛沙のことがよくわからない。
そういえば家族で会うことはあっても愛沙とこうして学校のメンバーで会う機会は少なかったかもしれない。
少なくともこれまで集まってたときはそんな事考える余裕などなかった。
「んーと……はぁ、まなみみたいに出来たら良いんだけどね」
「勘弁してくれ。愛沙までまなみみたいになられたら困る」
「あはは。確かに。二倍大変になっちゃうわね」
それでなくても手に負えないというのに……。
「まあでも、羨ましいと思うときはあるわね」
「まなみも同じこと思ってそうだな」
「ふふ。姉妹だからそうかもしれないわね」
愛沙はそう言いながらパシャパシャ水を蹴り始める。
「まなみがやったらどうなったかしら」
「俺をびしょびしょにしてたか、そのへんの魚が引っかかって蹴り飛ばされたかもな」
「流石にそこまでは……ないとも言い切れないわね」
まなみは底のしれないやつだった。
「私ね、正直あんまりクラスでどう振る舞ったら良いかわかってないのよね」
「そうなのか……?」
俺が遠目に見ていた愛沙は、品行方正成績優秀な誰が見ても優等生の完璧美少女だった。
だというのに……いや、そうだからこそ、か。
「うん。とにかく自分をよく見せなきゃって思って動いているうちにこうなったから……こうやって誘ってもらっても、どうしたら良いかわからなくなるのよね」
「なるほどな」
しかし……。
「なんでまたそんな、自分をよく見せようなんて考えたんだ?」
昔の愛沙はお転婆そのものだった。
自分の分で俺とまなみを振り回すことも多かったというのに……。
「それは……」
言い淀む愛沙。
「それは?」
「……自分で考えて。ばか」
「えっ」
「あー! よしっ! やりたいようにやることにするわっ!」
それだけ言うと川につけていた足を思いっきり引き上げて愛沙が立ち上がる。
「ぶわっ……おい……」
「あはは。ごめんごめん」
その勢いで発生した水しぶきが全部こっちに降り掛かってきた。
「康貴! お肉が食べたいわ!」
焼いてこいってことか。
「はいよ」
「ふふ」
「なんだよ」
理由はわからないままだが、突然楽しそうになった愛沙を見てホッとしている自分がいた。
愛沙の表情が曇ったままだと落ち着かないのは、俺も家族だと思い始めたからだろうか……。
「楽しいわね」
そう言って笑う愛沙は少し、昔の姿を彷彿とさせていた。
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