決心
「危なかった……!」
何が危なかったかと言われれば何かよくわからないが、とにかく危なかったんだ。
何回浴衣姿の愛沙を抱きしめたいと思ったことか……。多分人生で一番理性を働かせた日だったかもしれない……。一夜明けてなおこれだ。
ただ……。
「あそこまでいって……って、思われてるよなぁ」
携帯を見るのが怖い。今日は結局昨日の余韻で1日ぼーっと過ごしていた。
昨日のことを知ったまなみや暁人から何を言われるかわかったもんじゃない。いや、わかってるからこそ知られたくなかったが、まなみにはもう知られているだろうし、何かしら連絡が入っているだろうことは容易に想像できた。
「屋上だぞ……? 花火大会の日の!」
あれ以上望めることなどない絶好のシチュエーションだった。
「どうせやるならあの日の勢いでやっておくべきだった……」
今後、金輪際、あんなシチュエーションが訪れるとは思えなかった。
「ただなぁ……」
一方で、言い訳のようだが、あのまま告白するべきでないと思ったのも確かだ。
絶対気まずくなる。なんかわからないけど、勢いだけで言ってその先一緒にうまくやってる未来が見えない。
「というより、まなみの支援なしでろくに会話が弾む気がしなかった……」
情けない話だが、これは多分愛沙も感じていたと思う。
愛沙はこの休みの間にかなり打ち解けてくれたように見えるが、このまま学校が始まればほぼ間違いなく、あの冷たい表情は戻るはずだ。
「うぅ……」
今から胃が痛い。
だが夏休みを一緒に過ごして気づいてしまった。
「あれは別に、嫌がってたわけじゃない」
なんであんな顔になるのかはいまだによくわからないものの、別に嫌われていて怒られていたのではないことは、この夏休みで十分わかった。
夏休みはもう終わる。
だが時間がないわけではない。
「頑張るか……」
震える手で愛沙にメッセージを送った。
《星が綺麗だからちょっと外に出ないか?》
我ながらもう少しなんというか……なんとかならなかったのかと思うが、それでもまあ、決心して送れたことだけは自分で評価してもいいと思う。
まなみなしで話せるかとか、この先気まずくなるんじゃないかとか、そんなもので抑えきれなくなったこの感情に自分でも驚いていた。あの日の愛沙はそれだけ魅力的で、誰にも取られたくないと思ってしまったわけだ。
学校が始まれば嫌でも愛沙との差を感じてしまう。それを気にする相手じゃないことがわかっていても、いまここで、なんとかしたくなった。
《うん! いく! ちょっとまってて》
「良かった」
《準備とかあるから30分待って》
《わかった。そのくらいに迎えに行く》
《うん!》
そうだよな。
準備とかあるよな。
「その間に俺も、心の準備をしておこう……」
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