道中

「康貴といくのは初めてね」

「今まではどうしてたんだ?」

「藍子と行くことが多かったかな? 莉香子は吹奏楽だからいけば会えるときがあるくらい」


 藍子が委員長の東野だな。莉香子は最近覚えた。秋津だ。

 下の名前で呼ばれると脳内で一致させるのに時間がかかるな。


「委員長と来てたのか」

「1人だと流石に……ね。あとは美恵の応援にはまなみと行くこともあったり」


 美恵は加納だ。フィギュアの試合か。


「今度は康貴もいく?」

「そうだなぁ、機会があれば」


 どうせシーズンは冬だろうしまだ先だな。


「男子の試合に行ったりはしないのか?」

「んー、あのへんはまあ、クラスでは話すけど外ではそんなに。なんだかんだ一緒になることはあるけど」

「そうだったのか」


 打ち上げのときみたいによく遊んでるのかと思っていた。


「私がそもそもあんまり遊びに出なかったからっていうのも、あるかも?」

「そうなのか。普段何してるんだ?」

「ん? んー……家事?」


 家事か。なるほど。

 たしかに今日もまなみの弁当を作って持たせたらしいし十二分に高西家を支える戦力なんだろうなとは思う。ついでだからと俺まで弁当をもらってしまっているくらいだ。


「ついたわね」

「おお、思ったよりちゃんとしたとこなんだな」


 てっきりその辺の河原のグラウンドかと思ったら、一応スタジアムっぽくなってる会場だった。


「あ、まなみだ!」


 スタジアムの入り口からもまなみが練習しているのが見えた。試合前アップをしてるんだろう。

 まなみも気づいて手を振ってきた。


「おい、集中しろよあいつ……」


 かと思えば目を離していたはずなのにボールが飛んできたら野生動物のような身のこなしでボールに食らいついていた。切り替えの早さにみてるほうがついていけない。


「座らないの……?」

「ああ」


 周りを見渡すと意外と学校の人間が来ていて驚いた。


「康貴、ほんとに興味なかったのね」

「まぁ……」

「今日の試合、関東大会進出がかかってる大一番よ」

「そんな大事な試合だったのか」


 これまで練習してるのを見たことがなかったまなみをそんな大事な……いやまぁ、それだけ運動神経がずば抜けてるんだろうな……。


「秋津もいるな」


 もう吹奏楽もスタンバイをして音出しをしていた。部長の秋津は前に立って指揮をとってたが、こっちに気がつくと汗を拭って手を振ってきた。喋っているとやかましいだけだがああしているとやっぱり絵になる美人だった。


「にしてもほんとに、結構人が来るんだな……」

「そうね」


 どんどん増える観客は当然ながらほとんどが顔のわかる相手だ。愛沙はやはり有名人かつ身内の贔屓目抜きにしても目立つ美人なので入ってくる生徒のほとんどが目を奪われている。そして横にいる俺を見て不思議そうに首を傾げたり、ひどい場合にはヒソヒソなにか囁いている。

 これ、愛沙の評判的に良くないのではないかと思い愛沙との間隔をひと席分あけると、荷物を移動しながら愛沙が隣に詰めてきた。


「なに?」

「いや……」

「こっちのほうが見やすそうだからずれたんじゃないの?」


 愛沙の頭に離れる選択肢はないらしい。

 となるとまぁ、甘んじてこの視線を受け入れるしかないな……。

 諦めて始まりそうな試合に集中することにした。

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