観戦
「康貴! まなみが打つわ!」
「おお……」
なんであいつ、助っ人なのにクリーンナップにいるんだ。
「惜しい!」
1球目は空振り。ただスイングスピードが今までの打者より早い……。さすが勝利の女神(物理)だな……。
「どうしよう康貴! ホームラン打っちゃうかも!」
愛沙のテンションはもう娘の活躍を見守るお母さんのようになっていた。楽しそうで何よりだ。
「わー! 打った! 康貴みてた!?」
「見てる見てる。にしてもほんと、すごいな……」
打球を目で追っていたらまなみはあっという間に二塁に到達していた。
こちらに気づいたようで満面の笑みでピースしてくれている。
「可愛い……」
「いまの笑顔は俺に向けてだ……」
「バカ言うな、あれは俺だ」
よく見るとまなみのために集まってる生徒もちらほらいるようだった。
「あ、終わっちゃった」
結局まなみがホームに生還することはなく交代となる。どこを守るのかと思っていたら割と近くの外野まで来ていた。
ソフトボールは野球と広さが違うので柵を挟んでちょっと遠いが、当然こっちには気づくので手を振ってくる。
「康貴にぃー! 見てた?!」
集中してくれ……。あと俺に声をかけて欲しくはなかった……。
「コウキってだれだ?」
「俺か!」
「おまえはハルキだばか!」
これ以上目立ちたくないのでとりあえず頷いて親指を立ててやったら満足そうに守備についた。
それでも何人かはこちらに気づいたようでヒソヒソ声が聞こえてくる。
「なあ、あれって」
「高西姉、可愛いなぁ」
「いや横にいるのだれだ」
「なんであんなのが……」
正直顔と名前が一致しないので学年もわからないんだが色々嫌な目と声が届く。
どうしたものかと思っていたら愛沙が突然俺の手をギュッと握ってきた。
「康貴。まなみに集中」
「あ、あぁ……」
見ればまなみがスライディングキャッチのファインプレーでピンチを脱していた。ほんとすごい。
手を握ったのを見て周りの目も鋭くなった気がしたが、それをかき消すように俺たちに声をかける2人組が現れた。
「お、来てたのか!」
「隼人?」
「なるほど、妹の応援だな」
「真も来たのか」
2人はそれぞれサッカー部と剣道部のエースなんだが、今日は午前練習だけだったらしい。
「よっ、高西」
「こんにちは。久しぶりね」
2人の声が聞こえた瞬間に愛沙は手を引っ込めていたので多分バレてないとは思う。
そして愛沙の雰囲気が完全に学校モードに変わっていた。
「さてと、邪魔しちゃ悪いし離れるか」
「いや、別に邪魔じゃ――」
「良いってことよ。また遊ぼうや康貴!」
「あ、あぁ……」
畳み掛けるように隼人がそう言うと、2人はそのまま秋津のほうに挨拶にいって歩き去っていった。
「良かったのか?」
愛沙を見る。
「……なに?」
「いや……」
何を考えているかわからないちょっと睨むようないつもの視線がそこにあった。久しぶりに見た気がする。
「……なによ」
ただいつもと違って機嫌が悪いわけではないことはわかる。なぜか少し涙目に見えるし、すぐにまた手を取ってぎゅっと握りしめてきたから。
周りの視線も2人のおかげでうやむやになっていた。おかげでまなみの試合に最後まで集中できたが、愛沙はどうも学校モードが混ざってぎこちない。
ただ、試合中握った手だけは、最後まで離すことがなかった。
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