看病3

「あーん」

「……もうない、愛沙」

「もっと……」


 ダメだこれ……。熱のせいで壊れてる……。そしてこの状態の愛沙は破壊力が高すぎる……。

 幼児退行してるだろこれ……。まだ熱があるのに無理に身体を起こしたせいだきっと。


「寝とけ愛沙……」

「むー……」


 ちなみに手に負えないことを悟ったまなみは早々に部屋に引き返している。裏切り者め……。


「康貴にぃー!」

「なんだ裏切り者……」

「えぇー?! なんで!?」


 恨みがましくまなみを睨むがどこ吹く風でまなみは言葉を続ける。


「あのね、父さんたちも旅行先に合流するんだって」

「そうなのか」

「で、康貴にぃが心配だからどっちかの家でご飯食べなってー」


 なんで俺が心配されてるんだろう……。


「愛沙の風邪、言ってないのか?」

「うん! 心配かけると旅行楽しめないからって、お姉ちゃんが」


 愛沙を見る。


「お前……」

「えへへ……」

「えへへじゃない」


 ただえへへはずるいと思う……。熱で赤い顔でやられるといつものまなみのと違って何かこう、くるものがある。


「と、いうことで康にぃは泊まりでーす」

「いや、泊まりとは言われてないだろ……」

「ご飯は任せて―!」

「いや、お前料理できないだろ」


 まなみが部屋から飛び出していこうとするので慌てて追いかけようとしたが、愛沙に腕を取られて動けなくなっていた。


「愛沙……」

「だめ……?」


 それもずるい……。今日はとことんずるいな……愛沙……。


「いや、だめではないんだけどな……」

「うん……」

「あいつに飯、まかせて良いと思うか?」

「……」


 黙って手を離す愛沙。後ろ髪引かれる思いはあったがまなみを追いかけた。

 生命に関わることだからな……。


 ◇


「あ、康貴にぃ、ピザがいい? お寿司がいい?」


 リビングに行くとチラシを広げたまなみがいた。

 最初から作る気はなかったらしい。


「どっちも病人には食わせられんだろ」

「え? それは康貴にぃが作るんでしょ?」


 こいつ……。


「よし、まなみ。おかゆの作り方を教えてやるから作れ」

「えー……」

「その代わり俺とまなみの分はオムライスを作ってやろう」

「ほんとっ!? ふわふわ?!」

「ふわふわにしてやろう」

「わーい! やる!」


 好物は変わらないんだなぁ。

 人の家の冷蔵庫を開けるのはためらわれるがまぁ、今日は許してもらおう。


 たまごはある、ケチャップもある。最低限のものはできるだろう。

 ネギがあったから愛沙のおかゆにいれよう。


「康貴にぃー! 何からすればいいのー?」

「米とぎ、できるな?」

「任せろー!」


 野菜室を開いたら玉ねぎがでてきた。肉はなかったがウインナーがあったからそれにしよう。まなみはむしろ好きそうだし。


「康貴にぃー! 3合でいい?」

「そんなに……いやいいぞ」


 まなみは下手したら2合くらい食べかねない。ほんとよく太らないなと思うが、人の3倍は動き回ってるからな……。むしろ愛沙のほうが肉付きは良――やめようなんか殺気を感じた。


「じゃ、お粥の作り方を説明するからよく聞け」

「はーい!」


 玉ねぎを切りながらまなみに説明しようとそちらを見ると、なぜかまなみは部屋の端っこからひょっこっと顔を出していた。


「遠い……」


 すでにまなみは台所を離れてリビングからこちらを見ていたわけだ。


「だってすぐ目痛くなるんだもん!」

「はぁ……」


 先の思いやられる料理教室が幕を開けた。

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