海②
絶賛愛沙の機嫌が悪い。
原因はわかってる。愛沙をおいてまなみと2人、本気の遠泳をはじめたせいだ。ちなみに負けた。おかしい……。
「むぅ……」
「ごめんって」
ちなみにまなみは俺に任せて1人で浅瀬の魚を追いかけて遊んでいる。うまく逃げやがって……。まなみのほうが機嫌取るのうまいだろうに。
「えっと……」
「かき氷」
「ん?」
「かき氷、食べたい」
「わかった、買ってくる」
救いはこうして愛沙がコミュニケーションを取ってくれることだった。なんならちょっと、子どもっぽくなっていて可愛い。まなみもいて他の知り合いもいないとなると昔に少し戻れるのかも知れないと感じた。
言ったら怒るか意地になりそうだから絶対に口には出せないが、なんだかんだ愛沙のこの態度を楽しんでいる自分がいた。
「ついでに焼きそばとかも買ってくか」
俺もお腹がすいたし、まなみも動き回っているからなにか食べさせないといけない。
買い出し係としてしっかり頑張るとしよう。
◇
「さすが康貴」
「さすが康にぃ!」
愛沙はブルーハワイ、まなみはいちごだ。昔から変わってないようでよかった。
「好みが変わってなくてよかった。もしあれなら俺のと交換しようかと思って――」
「食べる」
食い気味に愛沙が食いついた。そんなに食べたかったのか? メロン味。
「じゃあ」
「あーん」
口を開けて目を瞑る愛沙。
これは……。
「ほらほら、康にぃ、はやくしないと溶けちゃうよ!」
「あ、あぁ」
慌てて愛沙の口にかき氷をつっこんだ。
恥ずかしい。これ、やる方もこんなに恥ずかしいものだったのか……。
「あはは。はい、じゃあ次わたしー!」
こうなると当然まなみも要求してくる。
「あーん」
「おぉ……」
まなみ相手なら似たようなことが起こることもあるのでなんともないかと思ったが改めてやると恥ずかしかった。
「康貴、これも食べて」
「あ、私のもあげるー!」
やられるのも恥ずかしい……。
結局焼きそばもフランクフルトも冷めるまでずっとかき氷を食べさせ合うことになってしまった。
火照った身体を冷ますためのかき氷だったはずが逆に暑くなった気がする……。
「泳ぐか」
改めて熱冷ましに海に向かう。
勢いよく海に飛び込んだら、意外なことに愛沙も追いかけて来た。
「水が嫌なわけじゃなかったのか」
「プールも一緒に行ったんだからそうじゃないのはわかるでしょ……」
呆れられた。そりゃそうか。
いやでも塩水だからとか……。まぁいいか。本人がいいと言ってるなら。
「さっきは……その……日焼け止めとか……」
「なるほど……」
小さく「ほんとは塗ってほしかったのに」と聞こえた気がするがつっこむと墓穴を掘るのでやめた。
そういうのはもうちょっとこう、時間がほしいというか、なんというかという感じだった。
「こんなこともあろうかと! ボールを用意しました!」
まなみがハイテンションかつ猛スピードで膨らませたビーチボールを掲げる。
「落とした回数が多い人が罰ゲームー! じゃ、康にぃいっくよー!」
「待て待て、手加減しろよ!?」
「えーい!」
バレー部の試合で助っ人のはずなのに部員より強い秘蔵っ子として活躍したまなみの手加減なしのアタックが足元の絶妙な位置に飛び込んでくる。
なんとか足を使ってあげる。
「おー!」
「えっ? これ私? えっと……えい!」
愛沙が水に足元をすくわれそうになりながらもなんとかあげる。
方向としては俺の方、これは取らないと俺の失敗にカウントされそうだ。
その後もまなみの容赦のないアタックと、愛沙のおぼつかない明後日の方向のパスをなんとか繋ぎながら遊んだが、罰ゲームは結局俺になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます