愛沙の結果
「康貴。テストの結果は?」
「あ、あぁ……」
まなみの勉強が終わりお疲れ様会のためにリビングへ向かうと、すでにテーブルについていた愛沙に声をかけられた。
どうも先程のことはなかったことにするつもりのようだ。こちらもありがたくそれに乗らせてもらうことにした。
「私の最低点は88。康貴は?」
「相変わらず凄いな……負けました」
「ふふ。で、何点が最高だったの?」
「85だよ」
愛沙との勝負だけを意識するなら、1教科にかけて勉強すればもう少しいけたかもしれない。ただ自分の成績を捨ててまで愛沙との勝負にかける度胸は俺にはなかった。いや一瞬考えたけどな。何でも言うことを聞くという条件が怖すぎて……。
「さて、何してもらおうかなー」
「う……」
楽しそうに笑う愛沙は可愛いんだが、今回に限ってはその笑顔も怖い。
「ま、それはおいおい考えるわね」
「わかったよ……」
「ふふ」
終始楽しそうに笑う愛沙はさきほどのことなどまるで頭にないかのようだった。それはそれで安心したが、ここまで何も言ってこないとなるとそれも含めて怖くなってくる……。
墓穴を掘りたくはないのでこちらから話題を出すわけにも行かず、そうこうしているうちに食事の準備が整っていった。
◇
「で、まなみは何してもらうことにするの?」
食事が始まってしばらくしたところで、愛沙がこう切り出した。
「あー……実は……」
「ダメでした!」
言いづらいかと思って口を挟んだ俺を遮って、明るくまなみが答えた。
「え……?」
「えへへ……ちょっと甘かったみたいで……」
たははーと笑うまなみからは、さっきの様子を知っていても気にした様子は伺えないくらいだった。
ただそこは流石姉妹と言うべきか。愛沙にはしっかり伝わったようで驚いた顔をした後少し悲しそうに顔をして下を向いた。
「そう……」
「ま、また頑張るよ!」
「そうね。でも今回も頑張ったのは間違いないから、康貴、まなみと一緒に出かけてあげて」
「え?」
突然の振りに戸惑う。
「私が勝った分、それでいいわ」
「えっ! ダメだよお姉ちゃん!」
「元々康貴に頼みたいことなんてそんなないし、丁度いいわ」
「もうっ! だめ。自分のことで使ってください!」
どうしたものかと思うが、もしまなみが出かけることで気分転換になるなら連れて行くのは別に全く問題はない。
「出かけるくらいならわざわざ勝った条件持ち出さなくてもいつでも行くぞ?」
「「え?」」
あれ? なんで2人とも驚いてんだ?
「康貴にぃはそんな! 誰とでもデートに出かけるような人だったの?!」
「いや待てなんでそうなった」
そもそもどっからデートという単語が出てきた。お前らと俺の関係値で一緒に出かけるのはそう呼ばないだろ。
「そう。康貴は誰とでもいつでも出かける……と」
「愛沙はなんでちょっと機嫌悪そうなんだ……。2人に言われればそんなもん、いくらでも付き合うって話だ」
「そ、そう……そうなのね……」
よかった。今回は正解だったようで一気に表情が柔らかくなった。
「じゃ、じゃあ康貴にぃ、私がお願いしたら行ってくれるの?」
「もちろん」
「ほんと?」
「なんで疑うんだ」
むしろ何回一緒に出かけたと思っているんだ。今更何をという話である。
「じゃああとでどこ行くか決めよー!」
まなみは今にも踊りだしそうなくらい元気になってくれた。よかった。
「康貴……私は?」
「なんだ。愛沙もどっかあるのか?」
「そうね……丁度いいから、勝った分は荷物持ちでもお願いしようかな」
「ああ、わかった」
それで済むならむしろこちらとしてはめちゃくちゃ助かる。なんなら日頃のお礼とさっきのお詫びを考えて、1つくらい買い物に貢献してもいいくらいだ。
「ふふ……うちの娘たち、世話が焼けるけどよろしくね。康貴くん?」
「このくらい別に、なんでもないですよ」
「あらあら」
おばさんも楽しそうに2人の様子を眺めていた。
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