ラッキースケベとまなみの泣き顔

 一通りのテストが帰ってきて、いよいよ運命のときとなった。

 今日は勉強会以来の久しぶりの高西家。テストで一区切りついたのもあって、お疲れ様会と称してご飯までお世話になることになっている。


「とりあえず、まなみの結果だな」


 成績上位者の張り出しは今日だったはずだ。フロアが違うので見に行きはしなかったが、まなみに直接確認しよう。


「おじゃましまーす」

「はーい! あぁ康貴くんよねー? そのまま部屋に行ってあげて―」


 インターフォンを押して確認を待たずにドアを開け、それを確認することもなく部屋に招かれる。セキュリティレベルが致命的に低い気はするがもう慣れたものだった。

 勝手知ったる他人の家。返事をしていつもどおり階段を上がると、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。


「あ……」

「へ……?」


 構造上階段を上がって最初に見えるのは愛沙の部屋になる。普段は扉を閉めているので壁と同じなわけだが、今日に限って扉が開いていた。

 そして悪いものというのは重なるもので、愛用のイヤホンを装着してくつろいでいたせいで、俺が家に来たことに気が付かなかった、ということらしい。


「あんた……今日来る予定だったのね……」

「そう、なんだよ……」


 緊張が走る。

 問題は愛沙の服装。

 扉の向こうの愛沙は、何度確認しても下着姿だった。ピンクのリボンがあしらわれた可愛らしいフリルのパンツと、胸元を含めて何もかもゆるゆるのシャツ。

 よく見るとシャツの中に下着をつけてる様子もな――。


「で、いつまで見てるの?」

「あ、えっと……ごめん!」


 何故か俺が慌ててドアを締める。普通逆じゃないのか……?

 しかし怒ってた、よな……?

 これこの後の晩飯……めちゃくちゃ怖いな……。


「気が重い……」


 まあそれでも進まないわけに行かないので、すぐ隣のまなみの部屋に向かった。こちらは愛沙と逆で、いつもは開け放たれている扉が閉まっていた。

 同じ轍を踏なぬようノックをしてみるが、返事がない。


「まなみ?」

「康貴……にぃ?」


 様子がおかしい。


「入るぞ?」

「……ん」


 生気のない声を聞き、返事が聞こえるや否や部屋に飛び込むように入る。

 そこにはクッションを抱きしめて目を腫らすまなみの姿があった。


「えへへ……見られちゃった」

「何してんだ……」

「ぐすっ……康にぃ……ごめんね?」

「なにがだ」

「あのね……頑張ったんだけど……ダメだった……ぐす……みたい」


 なんとかそれだけを言い切ると、クッションに顔をうずめて肩を揺らした。


 ◇


「落ち着いたか?」

「ん……えへへ……」


 まなみを慰めるため「こっちに来て」と言われたり「ちょっと撫でて」と言われるたび言うことを聞き続けていたら、すっぽりあぐらをかいた俺の上におさまって丸くなってしまっていた。


「ごめんねぇ……康にぃ……」

「別に謝ることはないけど……悔しかったんだな」

「うん……」


 頭に手を置くとそのまままた抱えたクッションに顔を埋める。


「頑張ってたのはちゃんと知ってるから、安心しろ」

「でも……」

「そもそも俺としては無茶振りが飛んでこない分良かったと思うぞ?」

「あはは……」


 目標がおかしいくらい高く設定されていたんだ。赤点すれすれをさまよっていた人間がいきなり成績上位者の発表に載るのは普通に考えれば無謀だ。


「で、何位だった?」

「54……」

「すごいな。よくがんばったじゃんか」


 素直に褒める。

 もともと赤点すれすれをさまよっていたまなみからすれば大躍進。100人抜き以上の偉業だ。本当によく頑張ってたな……。


「でも、約束……」

「別に俺が30位以内に入れっていったわけじゃないだろ?」


 自分が言いだした目標への進捗としても、54位まで頑張ったなら十分過ぎるほどだ。


「ま、どっちにしても頑張った分はご褒美は上げるよ」

「だめだよ……それは」


 珍しく意固地なまなみ。元々負けず嫌いな性格は愛沙そっくりなので、自分で納得できない部分があるんだろう。


「何でも言うこと聞いてあげるのは無理だったけど、何かしらは勝手にするから」

「勝手に?」

「そう。俺がご褒美をあげたいから、勝手に」

「そっか……勝手になら、仕方ないのかな……」

「仕方ない。まなみは十分頑張ったからな」

「そっか……そっか……」


 その後また少しだけクッションに顔をうずめていたが、復活したときにはいつもの天真爛漫なまなみに戻っていた。少し無理して笑う様子はあったが、次のテストに向けて気合を入れるまなみを見ていると次は目標を達成することは間違いない。

 贔屓目もあるかもしれないが、確信を持ってそう思えた。

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